第7話

 発電機がダメになっている。

 ジ……ジ……とノイズ音がする。

 視界はグレー。

 重篤だ。

 だけれど、整備をしてくれるお姉さまはもういない。『任務失敗』。そんなことばがよぎったが、任務の成功を祈る者は、もういない。

 私は消滅する。




 不安定な思考のなかで、定期的に浮遊するのは『お姉さまはリスナーからのメッセージを受信していた。では、そのリスナーとはだれか?』というものだった。

 星にすむ人々は、もうずっと前に消えていた。

 だから、彼らからメッセージを受信できない。

 その疑問は、夜式の記憶媒体にアクセスした時にわかった。

 お姉さまは、趣味として、何百年もの間の人々の生活の様子を、メモリー媒体に記録していた。

 その詳細を確認すると、夜式がラジオ放送中に話したものと類似していた。

 人々は、時代によって濃度に差があれど、おなじようなことで悩み、傷つき、救いを求めていた。人が好きであった夜式は、そのデータを記録した。きっと……私が暇を持て余していたからだろう、お姉さまは、そのデータを『ラジオリスナーのメッセージ』として、私にきかせたのだ。

 私の言葉なんか、最初から、だれにもとどいていなかった。

 電波は、くるくる、おなじ惑星の頭上を、空まわっていただけだ。




 くらやみにつつまれていた。

 おしつぶされる。

 消滅、だ。

 感情調整システムが切除されているため、くらやみをおそれることはなかった。

 銀色の光のつぶをみた。

 いつかにぎりしめた、夜式のなかにあった『銀色の貝殻』に似た物が、発光しているのかもしれない。

 すると、電波を受信した。

 なつかしい電波だ。

 メモリー領域がかすかに反応した。

 お姉さまと私は、森の前にいた。

 お姉さまは口をうごかしているが、声はきこえない。

 ウサギが木陰にきえていった。

 そんな映像がよぎった。

 この電波の発生源は、どこだ?

 ふと、おもった。

 もしかしたら、お姉さまは、未来の私に送電をしていたのではないか。

 お姉さまの機体に不調の兆しが出た時、修理できるものは、ここにはいない。お姉さまは私を修理できる。そうなると、私とお姉さま、先に機能停止になるのは、私。ひとりぼっちになるのも、私。

 だからお姉さまは――。

 体のなかが、ふと、熱をおびた。

 おかしい。

 へんだ。

 私には、感情調整システムは搭載されていない。

 だが、この熱源には、「あわれみ」とにた成分がふくまれていると、なぜかわかってしまう。胸が痛い。逃げだしたい。くるしい。

 銀色の光は、発光をつづけている。

 銀色の光は、徐々にくらやみをみたし、ぼやけていく。

 お姉さまになった。

 手をさしのべていた。

 お姉さまの手をとり、走った。

 

 



 一羽の衛星鳥が観測したところ、その惑星の地表には、一体の破損した機体がころがっていた。完全に停止している。

 起動していた頃は、美しい見た目をしていたと推測されるが、今はよごれている。

 機体は、両手で、なにかの機械の部品のようなものを、抱きしめていた。

 壊れているようだが、わずかにノイズ音をひびかせている。

 耳をすましてよくきけば、少女の笑い声のようにもきこえる。

 データの収集を終えると、衛星鳥は、つぎの惑星にむけて、とびたった。

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空転衛星 木目ソウ @mokumokulog

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