エクストラストーリー
第39話 100Years Later‥‥‥‥
そこは近代的な図書館だった。
ある休日、母と娘が訪れていた。
娘は小学生くらいの少女、ただ、あまり本を読むことが好きではないようだった。
「お母さん。早く早く帰ろうよ。もうお腹が空いた。途中で、何かおいしいレストランによって!! 」
「まだ11時間じゃない。もう少し待ちなさい。あなたも何かおもしろそうな本をさがして―― 折角来たのだから―― 」
「え――っ おもしろそうな本なんかないよ!! どうしようかな、どうやって暇をつぶそうかな」
少女は図書館内を見渡した。
本には全然、目も止めなかった。
ところが、同じように本棚に置かれている本の中に光るものがあった。
それは、高貴な紫色の優しく、大変美しい光だった。
「きれい!!!! 」
おもわず少女はその光る本に手をやり、机に座り、ページを開いた。
その瞬間だった。
「こんにちわ。よく開いていただきました」
年をとった優しい女性の声がした。
「えっ?? 気のせいね」
彼女はページを読み始めた。
それは、とても楽しくて読み応えのあるファンタジーだった。
聖女と、その聖女を助けた守護騎士、巫女の話――
「よかった。聖女は幸せを取り戻すことができたのね。たぶん、聖女と結婚した守護騎士はとてもイケメンだったのだわ」
「そうよ♡♡♡ 」
「えっ、えっ?? 本がしゃべらないわよね。どうも、お腹が空いてボウッとしてるんだわ」
やがて、ファンタジーはハッピーエンドを迎えた。
ただ、そこから少し空白が置かれ、追伸が書かれていた。
追伸
私が心の底から愛した夫の世界、
そして心の底から好きだった友人の世界に伝わったでしょうか。
夫とは大変素敵な時間を歩むことができました。
野球は9人? サッカーは11人??
最後の最後まで、夫の言っていた、そちらの世界のことはわかりませんでした。
でも、優しい方の目標は達成しました。
私達2人の間には、かわいらしい9人の子供が生まれました。
夫はこの世には既に亡く、私も、もう少しで後に続くでしょう。
でも、全く心配していません。問題ありません。
息子達や娘達は、最強に強く、そして最大に優しい心をもっていますから。
今、このロメル帝国では、人間と魔族達が互いに助け合い楽しく暮らしています。
この、私達、最大の目的を達成することができ、心からうれしいです。
私の心は今、幸せに満ちあふれています。
皆様方はどうでしょうか。
あっ 職業病みたいですね。聖女である職業病です。
よく夫からも言われました。
しかし、私は届けなければなりません。
あなたに。
誰にも、必ずその時はやってきます。
自分の未来が困難だらけで、高い高い壁がふさいでいます。
それは、あなたの心を最高に痛めつける。
大声で泣きだしたい。
だから、未来に続く道は全くないように思えるはずです。
しかし、未来をしっかりと見てください。
あっ――
あなたが魔眼持ちの白魔女ではなくても、絶対にわかります。
必ず、回りに生きる何億の存在、
不思議な手があなたを助けてくれるはずです。
あなたは必ず見つける。
壁を避け、壁に穴を開けて、壁を壊すことは必然なのです。
どうぞ、幸せをつかまれることを心の底から祈っております。
私が暮らすこの時から、何十年、何百年後の方々へ、
私が暮らすこの世界から、無限大の距離、無限大の次元を隔てた方々へ、
聖女―
白魔女―
神宮 マルク カタリナ .
「難しい!! 教科書みたい!! 」
「ほほほほほほ さすが、真面目なカタリナね」
少女が驚いて後ろを振り向くと、老婆が後ろから、その本をのぞきこんでいた。
老婆はめずらしい巫女装束を着ていた。
「おばあさん。これに書いた人と知り合いなの?? 」
「そうね。さっき少し出てきた。これを聖女と友人でした。それに(もう亡くなったのか‥‥)、この聖女の夫、守護騎士は私のいとこなのよ」
「え――っ おばあさん。それは少し無理があるわ、でも素敵な作り話ね」
「作り話。そうか、普通、そう思うわよね」
「行くわよ」
少女の母親が少女を呼びに来た。
母親は少女のそばに立っていた巫女を見ると頭を下げた。
「お母さん。あのおばあさん特別な人? 」
「そうよ。神様に仕える大切なお仕事をしている方ですよ」
そう言いながら親子は去った。
月夜見は、青く光る本に手を触れた。
そして言った。
「カタリナ。おひさしぶりだわ。あなたのメッセージ、こちらの世界にも届きました。幸せな結婚生活、ほんとうによかった!!!! 」
すぐに、青く光る本からカタリナの意識が伝わってきた。
「月夜見。まだお元気なのね。あなたに知ってもらえてよかったわ。私がほんとうに苦しかった時、私を一生懸命に助けていただいて、ありがとう。このことを伝えられて、もう、悔いはないわ」
「カタリナ。何を言うの。あなたは、まだまだ生きて。聖女だからまだまだ寿命があるでしょう。あなたの子供達、私のおい、めいのためにも」
「そうね。変なことを言ってしまってごめんなさい。これからの100年もがんばって生きていくわ。それから伝言、悟さんから。『ねえさん、宇宙のジャンプする背中を押してくれてありがとう」
「えっ、えっ そう、悟がそう言っていたの!!!! 」
「月夜見。今から聖女として最大の白魔女を使うわ」
「何、何?? 」
やがて、輝いていた本の青い光りが強くなった。
月夜見は何が起こったのかわかった。
「見事な異世界転送ね!!!! 」
本の中に、1枚の写真が差し込まれていた。
月夜見はそれを引き抜いて見た。
すると、
そこには、カタリナと
9人の子供達が笑いながら手を振って写されていた。
「そうか。さすが美男美女の子供達」
「そうよ。最高の子供達でしょ。月夜見のおい、めいは」
カタリナはそう言うと、マルク侯爵城の自分の部屋の窓から外を見た。
そこには、とても美しいローレライ湖が輝いていた。
その光りは、辛く苦しい運命を乗り超え、幸せをつかんだ彼女をたたえているように見えた。
過酷な巫女修行で強くなった聖女、婚約破棄しひどいことをされた国王にきっちりリベンジしようと思いましたが、止めました!! ゆきちゃん @yyky
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