第38話 最高のハッピーエンドにジャンプできるか2

 やがて、カタリナは城壁の上にあがってきた。


 夜の深い闇のように美しい黒髪に、月のように輝く灰色の瞳。


 今日は最高に似合う服装を着ていた。


 そして、悟に会う喜びにあふれそうだった。


(困った。カタリナさんは最高にきれい。彼女の美しい心が外見にあふれている)


「悟さんは。この素敵な想い出ができた場所に呼び出すなんて!! 知っていますよ!!!! 」


 彼女は無邪気にそう言うと、左手の薬指を彼に見せた。


 彼はとても見られなかったが、最高の勇気をしぼりだした。


 そして、懸命に努力して彼女の美しい灰色の瞳を見つめた。


 その時、カタリナも異常に気がついた。


「悟さん。どうしたのですか。そのお顔は、何か病気になったのですか!!!! 」


「‥‥‥‥ 」

 悟は何も言えなかった。


 しかし、とても優しくて思いやりの心をもつ、カタリナにはわかった。


「何か私に伝えたいことがあるのですね。とても言いにくいことなのですか。でも、私が聞いてとてもいやなことでも私は許します。私は聖女ですから」


 そう言うと、カタリナはがんばって、最高の笑顔で悟を見た。


「カタリナさん。明日神が、この異世界と地球の世界を結ぶトンネルを開きます。私は、ねえさんとともに帰らなければなりません」


「お2人とも、止めていただくことはできませんか。トンネルをくぐらず、いつまでもこの世界で私と一緒に生きてください」


 しかし、神宮悟じんぐうさとるは大きく首を振った。


「この世界に私とねえさんが留まることは、この世界が崩壊するほどの矛盾になってしまいます」


 それを聞いて、カタリナはもう何も言えなかった。


 しかし彼女は、一生懸命努力して言った。


「明日ですか。わかりました。私には最高の記憶が残ります。それを最高の宝物として私は生きていきます‥‥‥‥


‥‥‥‥生きていけるはずです‥‥‥‥ 」


 彼女の美しい灰色の瞳から大粒の涙がながれ落ちていた。


 神宮悟じんぐうさとるは思った。

(ああ、地球の世界に戻ったら、どうやって毎日過ごせば良いのだろうか)




 次の日、神宮悟じんぐうさとると月夜見は王都の城壁の上で待っていた。


 2人以外、見送りの人々はいなかった。


「悟。カタリナさんにはしっかり伝えたの?? 」


「はい。伝えたのですが、とても辛いから見送りはしないと」


 やがて、天空に黄金の門が現われ、そこから城壁に向い道が降りてきた。


「生きましょう!!!! 」


 月夜見はとても強い口調でそう言うと、悟の背中を強く叩いた。


 2人は道を上り始めた。


 時々、悟のスピードはとても遅くなったが、月夜見は無理矢理、彼を押して前に進めさせた。


 やがて2人は門の前に立った。


 そこからは、ロメル帝国の王都が一望できた。


「素敵な所だったわね」


 月夜見が悟に言った。


「はい」


 その後、2人は門をくぐり、その瞬間、門は消えた。




 ‥‥‥‥‥‥




 カタリナは王城の自分の部屋で、城壁に見送りに行こうか迷っていた。


 そして、迷いに迷ったあげく、決心して彼女は城壁に走った。




 全力で走った彼女は肩で息をしてゼイゼイいながら、城壁に上がった。


 しかし、


 そこのは誰もいなかった。


「もう、言ってしまったのね‥‥‥‥ 」


 彼女にとって、最高に空虚な場所だった。




 しばらくすると、


 空の高い場所から声がした。


「聖女カタリナ。あなたは、ほんとうに、あの守護騎士を愛しているのですね」


「女神様ですか!! はい!! 」


「あなたは幸運ですよ。愛の女神である私まで、あなたの気持ちは届きました」


「100年をあなたにあげます。たった100年くらい、あの守護騎士があなたの世界にいたとしても、宇宙のことわりの大きな矛盾にはならないでしょう」




 やがて、やがて、


 天空の高い場所に1人の人間が見えた。


「わあ、高い」


 彼は少しずつ、ゆっくりと下に落下してきた。


「悟さん!!!!!!!! 」


 カタリナの顔は最高の喜びにあふれた。


 やがて、神宮悟じんぐうさとるもカタリナに気が付いた。


「カタリナさん!!!!!!!! 」


 最後には、悟は城壁のカタリナのそばに降りてきた。


 2人は強く抱き合い、口づけした。


「悟さん。どうしたのですか」


「地球への転送の間、光りの道を歩いていました。すると、女性の声がしました」


「どういう? 」


「『そこからジャンプすれば、ハッピーエンドが待っています』と」


「ねえさんが感じて、『女神の声よ!! 』と」


「だから、すぐに、その光の道から宇宙空間に向かってジャンプしました」


「こわくありませんでしたか」


「あなたに会えることを思うと、全く恐怖は感じませんでした」











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る