第37話 最高のハッピーエンドへジャンプできるか1

 魔族達はあっという間に、王都の回りからいなくなった。


 すると、


 王城の中のフィルターで待避していた住民達は走りながら外に出た。


「大丈夫だ。魔族は去った。山岳地帯に行くそうだ」

「聖女様が、魔族をいやし説得されたそうだ」

「新しい皇帝陛下が、人間と魔族との平和共存を認められるそうだ」


 やがて、外に出た住民達は気がついた。


 王都を囲む城壁の頂上で、高貴で美しく、そして優しい聖女の紫色のオーラが輝いていた。


 大変不思議なことに、どんなに遠くからでも、住民達は、カタリナが微笑んでいることがはっきりと分った。


「聖女様だ」

「なんて素敵な光り、これからも私達を照らしてくれるのね」

「立派な方だ。あれほどの悲劇を乗り越えて―― 」


 住民達は歓声を上げた。


 やがて、どこからともなく


「カタリナ、カタリナ、カタリナ―― 」


 彼女の名前が連呼れんこされた。


 月夜見が言った。

 その目には涙がたまり、あふれそうだった。


「あなたはやり遂げたわ。すごいことよ。よくがんばりました」


「ありがとうごさいます。でも、月夜見がいなかったら、やり遂げられなかったわ。そして‥‥ 」


 カタリナは神宮悟じんぐうさとるに近づいた。


 そして、とうとう、彼のほほにキスをした。


 そして、とうとう、言った。


「私の守護騎士、私は悟さんを心の底から愛しています」


「えっ、えっ‥‥‥‥ 」




 神宮悟じんぐうさとるは大変どぎまぎしているようだった。




「カタリナさん。そう言うことは、男性の方から言うべきなんです。古くさいと思われるかもしれませんが。それで‥‥‥‥


‥‥‥‥今、カタリナさんがおっしゃったことは聞こえませんでした。私は私が守るべき聖女カタリナさんを心の底から愛しています。これからの永遠の愛を捧げます」


「う・れ・し・い‥‥ 」


 聖女カタリナと、その守護騎士神宮悟じんぐうさとるはしっかりと抱き合った。


 城壁の上のその姿を、たくさんの住民達が王城の中から目撃した。


 住民達はすべてを理解した。


「聖女様と守護騎士様が結婚される」

「なんて素敵なカップルなんだ」

「すばらしい物語ね、大変な御苦労の末、幸せを」


 やがて、王城の中にある教会の大聖堂の大鐘が鳴り響き始めた。

 大司教の許可を得ていないが、管理人の老人が鳴らしてしまったのだった。


 教会の中で、神父が大司教に聞いた。


「大司教様。無断で鐘が鳴らされています」


「問題ありません。私は許可しようと思ったのです。その気持ちを管理人が察していただいたのでしゅう」


 その時だった。


 はるか山岳地帯から、なにかの大群が飛んでくるのが見えた。


「あれは? 魔族? いや、少し違うわ」


 それは妖精の大群だった。


 ほんの小さな数億もの妖精が飛んできたのだった。


 妖精達は王城の上空にくまなく留まった。


 そして、


 妖精達は、色とりどりのたくさんの花びらをまき始めた。


 美しい雨のようだった。


 城壁に黒魔女ローザとその妹ロゼが転移した。


「カタリナ、おめでとう。これは、最高の友人にしてくれた私からのプレゼント」

「イケメンはすぐに美女と結ばれるのね。少しがっかりだけど、すぐ立ち直るわ」


 その後、数日間、聖女カタリナ、その守護騎士神宮悟じんぐうさとる、月夜見は王城に滞在した。


 マクミラン皇帝が退いて、次の皇帝に弟のランスロがつく戴冠式にも参列した。




 この異世界に転移したからも、月夜見は王城の一室で、巫女としての日課を続けていた。


 毎日、神からのおつげを確認していた。


 その日も祭壇の前で目を閉じ、神の意思と同一化できる状態になっていた。


 やがて、彼女は一言つぶやいた。


 目を開けた彼女の顔は大変険しくなっていた。


 しばらくして、月夜見が感じたことを神宮悟じんぐうさとるも共通認識した。


 同じ神職の一族間で行われる共通認識だった。


 その時、悟は王城の謁見の間で新皇帝ランスロと談笑していた。


 お互いに控え目で明るい性格の2人は、ほんとうに気が合っていた。


 皇帝ランスロが冗談を言った。


「守護騎士殿は物語を書くのが趣味なのか。これからはうってつけの場所で毎日過ごせるな。結婚してマルク伯爵になりあの城の塔からは美しい湖が見えるから」


「はははは、そうなればうれしいのですが‥‥‥‥ 」


 いきなり、神宮悟じんぐうさとるの顔は超険しくなった。


 そして、暗く黙り込んでしまった。


 それには、皇帝がとても驚いた。


「申し訳なかった。ほんの冗談だ。許されよ」


「いえいえ。陛下、少し体の調子が悪くなってしまいました。退席をお許しください」


「そうか。早く自分の部屋に戻り、ゆっくり休むがよい。我が専属医師を部屋に向かわせるか? 」


「陛下、ありがとうございます。結構でございます」


 そう言うと、悟はすぐに謁見の間を出て行った。


 そして王城の中で、自分の部屋ではなく、彼は月夜見の部屋に向かった。


 トントン


 彼は月夜見の部屋をノックした。


「ねえさん。お呼びでしょうね」


「はい。入って」


 中に入ると、月夜見はとても厳しい表情で出迎えた。


「朝、神からのお告げを受けたわ。もう、共感して内容はわかっているでしょう」


「はい。宇宙のことわりを守るようにと。そして、地球の世界に生まれた私とねえさんは、もう、この異世界を離れ、戻らなくてはいけない」


「どうする。神は期限を示されている。3日後には、この異世界から地球の世界に戻るためのトンネルの門が現われるわ」


「地球に戻ることを拒否できるのでしょうか」


「絶対無理よ。そもそも、カタリナを助けるため、世界の次元を超えてカタリナと私達を会わせたのも神。もう、その目的が達成されたということね」


「でもでも‥‥‥‥ 」


「わかるわ。しかし、宇宙のことわりを永遠の破り続けることは許されないの。私も悔しいけど、それは究極的にこの異世界の消滅にもつながるということね」


「‥‥‥‥ そう‥‥‥‥ですね。カタリナさんには‥‥‥‥ 」


「あなたが伝えなさい」


「わかりました」




 次の日、人を介し神宮悟じんぐうさとるは、カタリナを王城の城壁の上に呼んだ。


 前日から少しも眠れなかった悟は、寝不足の疲れ切った表情で、約束のかなり前から城壁の上でカタリナを待っていた。



 






 



 

 




 


 






 

 


 



 

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