第26話

赤焼けに染まった空に、鳥の群れが走る。

海の見える教室からは、水平線に沈む太陽が見え、反対側の空には夜の帳が降り始めていた。


まだ17時を少し回ったぐらいの時間。

太陽が帰宅を急ぐあまり、一日の時間が短く感じてしまう。


教室には手持ち無沙汰の女生徒が一人。

自身の席に座って、沈んでいく太陽をみていた。


茜色の空に当てられたのか、憂いを帯びた瞳。

頬杖をついているが、呆けているわけではなく、物思いにふけるような。

そんな黄昏た表情。


まるで物語のヒロインが感傷に浸るワンシーンのような、そんな空気を美月は一人の教室で作っていた。


美月は誰かを待っているわけではない。

校庭からは部活動に励む生徒たちの声が聞こえてる。

陸上部の声も聞こえることから、おそらく流花もまだ残っているのだろうが、連絡をすることすら、今の美月には億劫に感じていた。


「モデルはいないって……言ってたじゃん」

小さく呟いた。

それは不満の言葉だ。


初めて綺麗だと思った絵。

少し歳の離れたおっちゃんを、意識したきっかけ。

純粋に興味を持って問いかけたことに、嘘を吐かれたことが悲しかった。


美月は立ち上がると、静かに教室を後にした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


自然と足が4階へと向かった。

赤く染まった廊下は、まるで赤い絨毯を敷いたよう。

蛍光灯の灯は付いているが、夕日の方が強く、人工の灯は意味をなしていなかった。


夏休みの初日。

とある空き教室でみた光景を思い出す。

風の流れに乗って、覗き込んだ先に広がっていた異空間を。


空き教室の扉に手を伸ばすと、教室の扉は開いていた。

鍵の閉め忘れなのか、すんなり扉は開き、机の積まれた教室が広がった。


分厚いカーテンは開かれていて、夕日が差し込み、キラキラとホコリがチラつきながら、教室を映し出す。


夏休みの時と同じように、一つだけ綺麗に置かれた机と椅子。

あの日と同じ場所に置かれたそれらだけがあり、ディーゼルも画材道具ももちろんおっちゃんの姿もない。


床に鉛筆が1本落ちていた。

4Bの普段の授業では使わない少し濃い目の鉛筆。


ナイフで削られたのか、少し歪な形だが先端の尖った鉛筆は、ここで誰かがそれを使っていたことを物語る。


美月は残された椅子に座り、きっと先ほどまで誰かがいた教室を見渡した。

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彼が絵を描く理由 昼想夜夢 @haruwarai

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