第5話 side B’

辞令が発表になって、次の転勤先は祖母の家に近いなとまずそう思った。引っ越しや挨拶回りや引き継ぎなどに忙殺された日々が落ち着き、休みがとれたので、わたしはあそこにまた行ってみようと思った。


子供の頃は飛行機で空港へ着くとそこからは公共交通機関だったから、このあたりを走った経験はまるでないのだけど、運転は好きだしナビもあるからという軽い気持ちだった。ホスピスや岬、灯台、あのベンチはまだあるかな、見てみたいな、くらいの。


高速を降りてからかなりの山道をぐるぐると下る。長いトンネルを抜けて、少し走ると軽い潮風を感じる。海が近い。大きな交差点で信号待ちしていると、なんとなしに看板が目に入った。


岬シネマ?


なんだか気になって、近くのコンビニに車を停めて、岬シネマのサイトや地図を見てみる。それは国道沿いに建つミニシアターだった。こんなの10 年前、祖母が亡くなったあの頃にはなかったと思う。場所はホスピスのあった岬よりずっと手前だ。上映ラインナップはいわゆるミニシアターが今やってるような映画が紹介されているけど、でも、わたしの大好きな映画が上映中だ。『落下の王国』、それに。


わたしは動揺なんてしてない。そう呟いて、気持ちを落ち着けようとする。なんでもない、なんてことはないし、何も起きやしない。この映画をやってることに意味なんてないはず。

ただ、無心でアクセルを踏み、14時20分からの上映時間に間に合うように車を走らせる。14時20分の映画は、『エンドレスサマー』。


もしかしたら、まだ、間に合うのかな。

あの夏が終わってなかったなんてこと、ありえる?



end



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エンドレスサマー 立夏よう @rikkayou

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