言ったことが全て現実になる能力に目覚めたボク、ヤバすぎて社会から出禁になる

やまたふ

第1話 『何も』言ってはいけないあの人

 きっかけはひょんなことだった。



 ある日ボクが街を歩いていると、TV取材のお兄さんに呼び止められ、「最近不景気ですけどどう思いますか?」なんていう、「おいおい高校生にする質問か?」という内容のインタビューをしてきたので――。



「う~ん……いっそ税金とかなくしちゃえばいいんじゃないですかね(笑)」




 そんなボクの適当過ぎる答えで――世界は崩壊した。




 ……いや、崩壊したはさすがに言い過ぎた。

 正確にはメチャクチャになった。(いやいっしょか)


 突如として税収がなくなったせいで、国がやってるインフラやらなんやらの生活に必要な事業が軒並み機能しなくなり大混乱。

 さらには給料の元手が税金の人々もみんな失業し、町には路頭に迷った元議員だの元公務員だのが溢れかえった。


 しかもさらにヤバかったのが、これが日本だけの話じゃないってこと。

 世界中だいたいこんな感じ。


 まあこれについては一応、保険金を拡大解釈して運用するという力技で世界の秩序はギリ保たれたわけだが、割と世界大戦規模の混乱だったのは言うまでもない。


 でもって問題はここから。


 いったいどういうルートで辿り着いたのか知らないけど、こうなった原因はボクの発言にあることが特定されてしまい、気づけばボクは檻の中。


 口は厳重に拘束され、一言もしゃべらせてもらえない。

 最低限呼吸しかできない状態。食事も点滴のみ。




 こうして、ボクは無事に社会から出禁になった。





 ――が、話はここで終わらない。


 政治家などの権力者が破滅したことで、ボクは一部の人間にとってはヒーロー扱いだったらしく、解放を求めるデモが各地で起こったのだ。


 事態を重く見た国連は、とある条件と交換にボクへ出所の話を持ち掛けてきた。


 その条件と言うのが、「絶対に許可なく発言しない。したら死刑」という人権なんてまるで無視した誓いを立てること。


 ボクはこれを仕方なく受け入れた。

 さすがに一章牢屋よりははるかにマシだと思ったからだ(そもそも牢でもしゃべらせてもらえなかったしね)。


 そうして迎えた宣誓書への調印式。


 ボクは各国の首脳が集まる衆人環視のもと、やたら高級そうな羊皮紙にサインした。

 正直「なんでこんな大規模なの?」と内心思ったが、それだけボクの存在は世界の注目の的だったらしい。


 ともあれその後、式はすべて滞りなく終了。


 制限付きとはいえ、ボクは晴れて自由の身となった…………かに思えた。


「筆談ならいけるんじゃないか?」


 ふいに誰かがこんなことを言った。


 なるほど一理ある。

 ボクもその場にいた人間も皆そう思い、急遽試してみることに。


 ただし、万が一を想定してボクの頭には無数の銃口が突きつけられ、「下手なことは書くなよ! 書いたら銃殺だぞ!」と念押しされた。


 けれどそれが逆に良くなかった。


 人生において銃なんて見るのも初めてだったボクは、ついテンパってしまい……。




『おしっこ』




 その瞬間の空気は、それはもう言葉にできないものだった。


 いくら生理現象とはいえ、この状況で書くことか?

 そんな空気がひしひしと伝わって来た。


 さらに悲劇だったのは、その様子が世界中でライブ配信されていたことだ。


 What?(アメリカ)

 Quoi ?(フランス)

 Cosa?(イタリア)

 Wie?(ドイツ)

 什么?(中国)

 Τι?(ギリシャ)

 nə?(アゼルバイジャン)

 ・

 ・

 ・


 単語の意味を理解できない諸外国の方々の「え、なに?」という戸惑いのコメントが吹き荒れる。

 でもってお節介な誰かが意味を翻訳したせいでもっと荒れた。大炎上である。


 このとき、きっと世界中の人間がボクのことをサイコパスと認識したに違いない。


 まあそれはひとまず置いといて、大事なのは筆談がセーフだったのかなんだけど……。




 結論から言うと、ダメでした。




 暴れ回る膀胱。

 迸る尿意。

 内股で走る人の波。


 気づけば全世界のトイレの前には、まるで開園前の千葉にある夢の国もビックリの長蛇の列ができていた。


 募る苛立ち、焦燥、恐怖――そして尿意。


 割り込みによる奪い合いが、殺し合いに発展したというケースも多々あったと聞く。

 あるいは海や川へと安住の地を求めて移動したものも。


 しかもそれはあくまで人類に限った話。


 地球には人間などと比べ物にならないほどたくさんの動物がいる。

 そいつらもみんなボクの能力の被害者だった。


 そんな風に世界がメチャクチャになってしまったもんだから、当然わずかばかりいたボクの支持者も全員漏れなくアンチ化した(あっちの方は漏らしながら)。


 口だけだった拘束具は腕にも増え、ボクはペンどころか何も握らせてもらえなくなった。

 理由は固いものなら壁を削って文字が書けるし、柔らかいものでも並べれば文字を作れなくもないから。


 一応、ボクとしては「あんなに大勢の人に囲まれたら緊張する」「会場の空調がやや強かった」とかいろいろ不満はあったのだが、それはもはや言ってもしょうがない(というか言わせてもらえない)。



 とにかく、これにてボクの人生は終了。

 今度こそ正真正銘、社会から出禁となってしまったのだ。








 ◇◇◇



「…………」


 そして現在、ボクは地球に飛来してきた巨大隕石の真下に立っている。


 ――ザザッ。


『ゴールド9、聞こえるか?』

「…………」


 インカムを通してノイズの奥から渋い男性の声が流れてくる。


『いいか? これは人類存亡の危機だ。この地球上において、頼りになるのはもはやオマエしかいない』

「…………」


 承知してますとも。


『ミッションは単純だ。たったひと言呟く……それだけだ』

「…………」


 オーケーオーケー。


『わかっていると思うが、くれぐれも指示以外の余計なことは言うなよ。繰り返す。くれぐれも、だぞ?』

「…………」


 わかってますってば。てかそれ、フリじゃないよね?


 コキコキと首を鳴らす。

 ボクは一歩前に出た。




 コードネーム:『ゴールド9』。


 それがボクの新しい名前。

 人類の危機を陰から救う、ヒーローの名。




『では、幸運を祈る』

「…………」


 イエッサー。

 ボクは心の中で呟いた。




 ――そう、物語はここから始まる。





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 いろんな作品がある中、この作品を読んでいただきありがとうございます!!!!

 我ながらくそしょーもない一発ネタだと反省しております🙇‍♂️


 本作については、↓の長編作品にていろんなスキルを考えていたらこの能力を思い付いたんですが、「いやこれ強すぎてマジでダンジョン出禁だろ」となって諦めたので、供養するために短編にしました。(一応ネタだけは数話分くらい考えましたが、たぶん世の中には出しません)


 ループ・ザ・ダンジョン🌀一度の失敗が人生終了のダンジョンで、ただ一人セーブできるようになった底辺ぼっちの成り上がり

 https://kakuyomu.jp/works/16817330667591075828 


 ちなみにコードネームの由来は『禁句』→『きんく』→『金9』→『ゴールド9』です。

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言ったことが全て現実になる能力に目覚めたボク、ヤバすぎて社会から出禁になる やまたふ @vtivoo

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