第4話 そして、僕の拷問生活
絶世の美女である魔王自らの拷問。
こんな美人にしてもらえるなら、鞭打ちでもなんでもいいです!
全部ご褒美です!
僕は、そんな浮ついた気持ちのまま拷問部屋に連行された。
連れて来られた部屋はものすごく綺麗だった。
キッチンもあり、ベッドは天蓋つきの超豪華なものだった。部屋全体を色っぽくライトアップまでされている。
一言で例えるなら……
ラブホみたいだ。
行ったことはないので、想像でしかないけど。
座るところが、尖った木馬とか、中が棘だらけのアイアンメイデンとかが置いてある場所を想像していたんだけど……。
「ここは?」
「くっくっく。ここは私の部屋だ!」
初めて訪れた女の子の部屋が魔王の部屋なんて……。
めちゃくちゃいい!
これはどうしたらいいんだ。
ガチャン!
魔王が扉の鍵を締める。
「これで、外に、助けをよぶことはできない」
完全密室で、好みの女の子と二人っきりになってしまった。
「ここでは、恐ろしくて、誰も読んだことがない私の本名で呼んでもらう」
なんてことだ。女の子の名前呼びのイベントまで発生してしまった。
「どんな名前ですか?」
「ディアだ!」
「ディア!?」
可愛いすぎる。
「くっくっく。悪魔の名前ディアブロから名付けてもらったのだ。恐ろしかろう」
そんな愛情のこもった名前を呼ぶことができるなんて!
「今からお前には、この毒いもを食べてもらう」
魔王は、芋を掲げてみせる。
「人が食べると、腹痛や吐き気、下痢、嘔吐、頭痛、めまいが起きる」
……うん。
どうみてもジャガイモだ。
確かに、ジャガイモは芽が出てくるとソラニンやチャコニンが含まれて大変危険だ。
魔王がいそいそとエプロンをつけて、料理を始めた。
まるで彼女が、手料理を振る舞ってくれるようだ。
「すみません。ディア、芽や緑の部分があると拷問にならないので取り除いてもらってもいいですか?」
「分かったぞ」
うん。素直。
普通に料理してくれるだけになってしまった。
いいのだろうか。
僕は、席に座って、魔王が料理する後ろ姿を眺める。
新婚生活かな?
幸せすぎる!
魔王が、お盆にのせたジャガイモ料理を持って来てくれる。
「さあ、召し上がれ」
肉も入っていて、にんじんや、インゲンのような野菜も入っていてどうみても肉じゃが。
僕は、恐る恐る口に運ぶ。
優しい口どけが、全身に広がった。
社会人になってから、一度も帰ることが出来なかった実家に帰って来たみたいだ。
思い返せば、就職してからろくなことがない。
特になにも教えてもらわないまま、プロジェクトに配属されて、毎日毎日夜中まで働く日々だった。
ようやく区切りがついて、明日から休めるというところで異世界転移。
城の武器を適当に与えられて、魔王を倒してこいと言われた。
頼れるものがなにもない世界では従うよりほかなくもはや奴隷とかわりがなかった。
そんなささくれだった心をほぐしてくれる味わい……。
「どうだ?」
僕は、あまりの美味しさにこみ上げてくるものを感じて涙を流してしまった。
「そうか、そうか、そんなに苦しいか!」
魔王は、僕の涙を見て、満足そうに頷く。
「さらにお前を苦しめよう」
無理やり僕はベッドに連れていかれた。
「レンガの壁すら打ち砕く、恐ろしい足の上に頭をのせるがいい!」
僕の頭に柔らかい太ももの触感が伝わってくる。
これ、完全に膝枕だ。
「この恐ろしく少しでも触れてしまうと八つ裂きになる爪のついた手を見てみろ」
すんごくギャルぽいきれいなネイルだ。
「この手でお前の頭をなでてやろう」
なんだこの母性溢れるさわり方は、もう甘えんぼうの子供になったようだ。
「そして、さらには、私の恐ろしい声で歌を歌ってやろう」
魔王が歌い始めた。
透明で響きわたる。
あっちの世界で聞いていたVTUBERのASMRより数倍いい!
声が綺麗すぎる。
耳が幸せです。
僕はいつの間にか意識が途切れていた。
目が覚めると、魔王が歌い終わったところだった。
もうダメだ。
江美さんも戦えないし、平先輩は魔族のボディービルダーになったし、如月先輩は完全に魔族になってしまった。
こっち世界で魔王討伐を依頼してきた王族は適当な装備で無理やり旅にだされただけだ。
とくにギリもない。
従う理由もない。
僕がこの世界の人間を裏切ろうと思った時、魔王が言った。
「お前が耐えられなくなるまで、この生活が続くと思うがいい!」
なんだって!?
寝返ったら、この幸せな生活が終わってしまう……!
僕は今すぐねがいりたいが、この生活を続けるためには、寝返る訳にはいかない。
「僕は勇者だ、この拷問に耐えてみせる!」
「ふっふっふ、いいだろう。魔王の恐怖をとくと味わうがいい!」
恐ろしい魔王からの壮絶な拷問の日々が今始まった。
捕らわれ勇者の拷問生活。魔王様、それご褒美です! 名録史郎 @narokushirou
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