それから

あくる日の昼。私は縁側に座っていた。

「母様、母様、見てください!」

どこからともなく走ってきて、私の膝に小さな手をつく。彼女のその手には、庭先に咲くシロツメクサがあった。

「綺麗だね。花冠を作ろうか?」

「はい!作ってください!」

朗らかに笑った彼女は、庭先のシロツメクサを沢山摘み始めた。そこへ、颯がやってくる。よっこらしょ、と私の隣に腰かけ、穏やかな目線で愛らしい娘を見つめる。その横顔は、いつみても大好きだ。

「凪さーん、沖田さんのも作ってくださいよ!」

「いいですよ!母様、私に作り方を教えてください!」

「はいはい。こっちに持ってきて」

何処からともなくふらっと現れた沖田は、凪に向かってそう微笑みかけた。彼は子供と遊ぶのがとても大好きな人。凪も、沖田のことは嫌ってはいないだろう。昔の戦友たちは、今や隣人さんたち。私たち郁馬家の隣の家に住んでいる。そして郁馬家にも一人、郁馬凪が家族として誕生した。

「凪。ほらできたよ」

「ありがとうございます!総司兄様もどうぞ~」

「わあ~!ありがとうございます!」

出来た花冠を手渡すと、凪は私のやり方を見て作っていた花冠と一緒に沖田に持って行った。沖田は本当に嬉しそうに、にこにこ笑いながらその花冠を受け取った。

「ったく、あいつは本当に子供と遊ぶのが好きだな」

不意に庭へやってきた男は、呆れたようにため息をついた。私はそいつの方を向いて、少しぶっきらぼうに口を開く。

「遊び心があるんだよ。斎藤とは違って」

「たしかに。言えてるな、律」

私が斉藤を揶揄うと、颯もうなずいて賛同した。そんな私たちに、斎藤は再度はあ、とため息をついて頭を掻く。

「夫婦共々、揶揄わないでくれ」


笑いが絶えない幸せな日常。その裏には、数々の努力と血と涙。あの時は苦しかったけれど、今はもう大丈夫。

明治十年。春のあくる日。郁馬律は、家族と友人に囲まれて幸せな日々を送っていた。

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さすらい少女≪律≫ @mamerock6

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