兄弟子
朝起きて、朝餉を食べて。とくにいつもと変わらない朝。
朝餉を終えると、私は城の広い庭を使わせてもらって師匠と鍛錬をする。姿勢や太刀筋の悪い癖などを教えてもらい矯正して、より相手から読みにくい動きやすぐ反応できるようにするためだ。ある程度私の癖は分かったから、今は素振り中。庭石に腰かけてぼーっとしている師匠だが、その鋭い鷹のような眼光はちゃんと私を見ている。いつもあんなにふざけた態度をとっている癖に、こういうところは生真面目だ。しかし、私は師匠のこんなところも嫌いではない。
「律。兄弟子のこと、覚えてるか」
「なに急に。覚えてるけど」
唐突に師匠が話を振ってきて、私は木刀を下ろして師匠のほうへ体を向けた。鳶色の眼光は、いつもの
「あいつ、新選組に入隊したそうだ」
「ふうん。柏尾兄なら選びそうな道だね」
「ただ、問題がある」
新選組に入隊したという話は、別に無所属のは私には関係ない。剣の腕を見込まれて選ばれたのなら、私も嬉しいところだ。しかし、反対側の立場の人間であればこの報告は喜べないだろう。師匠の声色と視線から、私はあることを悟った。
「師匠、維新志士だったんだ」
「まぁ…な。俺は薩摩藩出身だ、昔は偉人の傍付き剣士なんてやってたもんだ」
「そう。それで?まだなにかあるんでしょ」
私がそう投げかけると、師匠は参ったというように苦笑した。お前の勘の良さにはいつも参るな、と笑いながら彼は口を開いた。
「律、お前も維新志士側に協力してほしい」
こないだより熱を帯びた風が、私たちの間を通り抜ける。松の木の幹に止まっていた蝉がじーじーと鳴きはじめた。
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