墓地の幽霊


昨日の三色団子があまりにもおいしかったので、私は颯に秘密で昨日のお店に来ている。颯は今買い出しに行っていて、たぶんこっちには来ないだろう。

今日はお団子、抹茶付きで頼もう。

そう考えながら気分上々であるいていると、誰かとぶつかってしまった。

「すみません」

「あっ、ごめんなあ。ってあらら美人さんやないの!!」

「は、はい?」

ぶつかってしまった相手は、関西弁で喋る女の子だ。私と背は同じくらいで、少し茶色がかった長髪を高い位置でお団子にしてまとめている。

「ごめんなぁ。うち、よー喋るって周りからよー言われんねん。今のはちょっと口が滑っただけやで、気にせんとってな」

「は、はぁ」

「よかったらうちとお茶せえへん?そこのお店のお団子、滅茶苦茶おいしいから!」

「ま、まあ、ちょっとだけなら」

昨日食べた三色団子のお店に案内されて、お団子が食べれるならいいかなと思ってしまった。この人、よく喋る人だな。

なんやかんやで連れ込まれて、お団子と抹茶をおごってもらった。優しい甘さのお団子が、抹茶の苦みととても相性がいい。これぞ絶品。

「うち、伊吹葵いぶきあおいていうねん。お嬢ちゃんの名前は?」

「律です」

「そうかそうか律ちゃん!いやあ、めんこいわぁ~」

そう言ってにこにこする葵。人懐っこい笑顔には、素直さがしっかり表れていた。きっとこの人、ほんとに私を気に入っただけで話しかけてきたんだろう。

その後いろいろ話している間に、段々私たちは打ち解けてきた。好きな食べ物、好きなこと、これまでで楽しかった話など、楽しく会話を交わしていると、いつの間にか日が暮れていた。

「いやぁ楽しかったわ律ちゃん!また遊ぼうな~!」

「うん。またね」

あ、しまった。颯に極秘任務がばれてしまう。

葵と店で別れてから、少し道を歩いたときに思い出した。早く帰ろうと思い、私は町の瓦屋根を全力疾走して宿へ戻った。



「お帰り」

「う、ただいま」

宿に戻ると、颯があぐらを掻いて畳に座っていた。どうしよう、絶対怒られちゃう。颯の顔が見られない、背中を冷や汗が流れる。

「ごめん、颯」

このまま嘘を付こうったってきっと無理、颯にはお見通しだろう。私は観念して謝ることにした。颯に買い出しを押し付けて自分の欲に負けてしまったのだから。

部屋の入り口で頭を下げたまま固まっていると、はあ、と颯の息の吐く音が聞こえた。

「俺こそごめん、甘味買ってきちゃったんだよね」

「え?」

思わず素っ頓狂な声をあげて、頭を上げると颯が羊羹の乗った皿を持っていた。それを見つめたまま私が固まっていると、ぶはっと颯が噴き出した。

訳が分からないまま、私が颯の傍にちょこんと座ると、彼は笑いをこらえて私の方を見た。

「俺も、律に内緒で甘味食べようと思ってた」

どうやらお互い考えていたことが同じだったようだ。なんだかちょっと面白くて、私も少し頬を緩ませる。なあんだ、一緒だったんだ。


緊迫した雰囲気が解けたところで、私は今日あったことを颯に話した。そういえば思い出したことがある。それは、葵と会話している時の話。

葵と世間話をしている際、この町の怖い噂とやらを聞いたのだ。それは墓地に出る幽霊の話で、ここ最近毎日墓地に出てきては、人に目視されると瞬きの間に消えているらしい。実に気味の悪い話だが、私は幽霊など信じていないので平気だ。しかし、颯も町中で同じような噂を何度も聞いたらしく、困っている人が多いよう。私たちは、今夜調べに行くことにした。



***


「月が綺麗だね。本当に幽霊なんか出るのかな」

「えっ、あぁ、そうだな」

夜道を歩きながら颯にそう話しかけると、彼は驚いたような素っ頓狂な声を上げた。一体どうしたのだろう。まあ普通に返答してくれたので、きっと大丈夫だろう。

静かな春の夜道を二人並んで歩きながら、辺りを見渡していると目的の墓地が見えてきた。

「ここだね」

「ああ」

夜の墓地は少し気味が悪い。春の暖かい風が頬を撫でるが、それは寒気に一瞬で変わった。墓地に足を踏みいれると、ざああと背の高い草が風に揺れた。

目的の場所に近づくと、何かの気配を感じた。私はさっと身構えて愛刀に手を掛ける。今は血を吸ってしまった愛刀だが、守るべきものを守るために汚すと誓ったのだ。もう立ち止まって戻ることはできない。

ゆっくり歩みを進めると、人影が見えた。月光に照らされる髪はおちついた茶色。そして今日の昼間に見たように、高い位置でお団子にして長髪をまとめていた。

まさか。

その人物は、ゆっくりこちらを振り返る。昼間に間違いなく見た橙色の瞳と視線がぶつかった。

「なんや、律ちゃんか。こんなとこでどないしたん?」

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