匂わせ系バンパイア

押見五六三

もしかして私の彼って……

「えっ? にんにく抜き」

「うん。俺、にんにく苦手なんだ」

「だって『こってり、にんにく、たっぷりラーメン』よ! これのにんにく増し増しの増しが名物なのに」

「いいんだ。あっ、大将。俺はにんにく抜き抜きの抜きで」

「お客さん。うちのラーメンはスープにもにんにくが入ってますよ」

「じゃあ、スープはお湯だけで大丈夫です」

「お湯だけって……それじゃあ、まるでつけダレの無い釜揚げうどんよ!」

「いいんだ。俺、薄味が好きだから」


 怪しい。怪しいわ。

 彼、ビラド五世君と交際して早三年。

 思い返せば今までも「夜しかデートできない」とか「犬歯が邪魔でハーモニカが吹けない」とか言って、色々怪しい点が有ったわ。

 もしかしたら彼って……。


「ねえ。ビラド五世君。今晩うちに泊まりに来ない?」

「今晩?」

「私達、来月結婚するんだから良いじゃない」

「ごめん。俺、棺桶が変わると寝れないタイプなんだ」

「棺桶?」

「そ、そうなんだ。俺の生まれたルーマニアの田舎では、棺桶で寝る習慣が有るんだよ。そうだ。一緒に住んだ時の為のダブル棺桶を来週買いに行かないか?」


 そんなダブルベッドみたいな二人用の棺桶有るの?

 なんか寝返り打てなくて苦しそう。


「ビラド五世君。私ね、結婚したらペットが飼いたいの。ビラド五世君は犬派? それとも猫派?」

「俺はコウモリ派かな……」

「コウモリ派?」

「う、うん。実家の城ではコウモリ百匹飼ってるんだよ」

「コウモリ百匹?」


 コウモリ百匹って、ちょっとした鍾乳洞じゃない。

 普通、コウモリ百匹も自宅で飼う?

 怪しい。すごく怪しいわ。


 そういえば以前、彼が咳き込んでいた時、「インフルエンザ?」って聞いたら「ちょっとスペイン風邪が長引いちゃって……」とか言ってた。スペイン風邪が流行ったのは百年前よ。あなた本当は歳いくつなの?

 それに昨日も、たこ焼き食べに行こうって言ったら、「俺、たこ焼き見たら、胸に杭打ちされてる気分に成っちゃって駄目なんだ」って言われて断られた。先端恐怖症の男子が多いのは知ってるけど、普通、たこ焼き見て胸の杭打ちをイメージする?


 今まで気づかなかったけど、考えたら色々怪しいわ。

 やっぱり、この人……。


「ミロロ。来月の二人の結婚を祝して乾杯しようか?」

「うん」

「大将、オススメのお酒を二人にください」


 彼がそう言うと、大将は日本酒の一升瓶を持って来て、私達に注いでくれた。


「乾杯!」

「乾杯!」

「うーん、美味しい!」

「本当だね。大将、これ何てお酒?」

「これは灘の名水で作った『鬼コロリン』です」

「せ、聖水?」


 ビラド五世君はそれを聞くと、胸を押さえながらテーブルに突っ伏した。


「ビラド五世君! 大丈夫?」

「し、しまった。聖水が入っていたとは……俺、聖水は受け付けない体なんだ……」

「やっぱり……あなたは……」

「ゴメン。今まで秘密にしてたけど、本当は俺、血統書付きの吸血鬼だったんだ……」

「馬鹿ね。そんな事、三年前から知ってました」


 本当は、さっき気付いたんだけどね。


「ずっと隠していてゴメン」

「ううん。あなたが例え大金持ちの御曹子でも、違う星から来た王子様でも、全く気にせず結婚してたわ。私は吸血鬼を好きに成ったんじゃなく、あなたを好きに成ったのよ」

「ミロロちゃん……」

「お取り込み中すみません。お客様が飲んだのは、『聖水』じゃなく『名水』ですよ」

「えっ? 聖水じゃないの?」

「はい。でも、お口に合わなかったようですね」


 そう言って大将はワイングラスに入った真っ赤な液体を二つ出してくれた。


「トマトジュースをスッポンの生き血に変えた当店オリジナルのブラッディマリーです。さっき私の腕に止まっていた蚊を二匹捕まえてブレンドしてみました。さあ、新鮮なうちにどうぞ。私から素敵な二人への結婚祝いです」

「大将……」


 大将の粋な計らいに超カンドー。


 こうして私達は一ヶ月後、無事教会で結婚式を迎える事ができました。

 誓いの時、神父さんの十字架を見てビラド五世君は失神しちゃったけどね。

 みんなも吸血鬼の彼氏と結婚するときは、十字架に気を付けてね。


〈おわりん〉



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