第11話 聖女の務め
「おお!聖女様!!」
「ありがとうございます!!」
「どうか我々にお恵みを!!」
そんな人々の言葉に美優は手を振りながら笑顔で答える。豪華なドレスに身を包み、周りには護衛の騎士が何人もついている。その中にはジオロールの姿も見えていた。
彼女が召喚されてから1ヶ月が経過している。まだ彼女は魔族との戦争に参加せずに今は各地を回っている。その目的は彼女の聖力を土地に定着させるためだった。
邪力は命を奪う力、聖力は命を与える力を秘めている。もちろんその他にも効力はあるのだが、初歩的な技術はこの2点に限るのだ。
聖力が定着するとその地域に暮らす人々の自然治癒力が上がる。その効果は全治1週間の怪我も3日程で治ってしまうほどだ。それは単純に戦力の向上、訓練の質の向上に直結する。
また人間だけでなく、作物にも良い影響を与える。邪力の定着した地域では魔物以外の生命体が苦しむ、それゆえ作物も育たないのだが、聖力は違う。作物は豊かに育ち、その成長速度にさえ影響を与えるのだった。
だから人々は聖女が来ただけで喜ぶ。それは正しく神々の恵みにも等しかった。
現在はサルベキア王国の国領内にある都市、フリガシラに来ている。
「聖女様!助けてください!!」
そんな美優たち一行の前に1人の女性が子供を抱えて走ってきた。おそらく親子なのだろう。ただ服装はみすぼらしく、汚れている。子供はぐったりしており、息が荒く顔も赤い。おそらく熱が出ていたのだろう。
母親らしき女性はその場に座り込むと頭を下げて美優に話しかける。
「私たちが話しかけても良い立場でないのはわかってます!!
それでも息子だけは...助けてください!私には薬を買う余裕もないし、仕事も与えて貰えないんです!罰は受けますのでどうか...!!」
必死に涙を流しながら懇願する女性、美優はその女性に近寄ろうとした時だった。
「立場がわかっているのならこの場から去りなさい。」
ジオロールの冷たい声がした。ジオロールはその親子をゴミを見るかのような目で見つめていた。
「その様子なら税もまともに納めていないのだろ?だったら聖女様の力に預かれると思うなよ?」
「やめてください!私の仕事でしょ!」
冷たく言い放つジオロールに美優が怒鳴り声をあげる。助けが必要な人に対してなんて冷たい人なのか。
美優が駆け寄ろうとしたその時だった。
「やめなさい。また電撃を喰らいたいのですか?」
ジオロールは美優を脅した。一瞬戸惑う美優だったが止まらない。電撃を受けても死にはしない。でもこの子は?まだ子供の少年にとって今の現状は生死の境目なのかもしれない。
自分には助ける力があるのだ。助けずにはいられなかった。
「愚かな...」
ジオロールは呆れながらも美優に電撃を流す。それでも美優は止まらない。電撃を我慢しながら普段通りに振る舞う。今苦しんだら彼女たちを不安にしてしまうからだ。
美優は笑顔で少年の方に手を向ける。この1ヶ月間で聖力の使い方は身についていた。手に聖力を集中させ、少年に聖力を与える。
(早く良くなってね)
願いを込めながら聖力を注ぎ込むと少年の顔は段々と穏やかなものになった。もう大丈夫だと判断した美優は笑顔で女性に話しかける。
「これでもう大丈夫だと思います。またいつでも頼ってください。」
「ああ...ありがとうございます......。」
女性は涙を流しながら美優に感謝するのだが思わぬ光景を美優は目にした。
周りのものが落ちていた石を女性に投げつけ始めたのだ。
「ふざけるな!ゴミが!!」
「俺らは金を払っているんだぞ!!」
辺りから罵詈雑言が飛ぶ中、女性は少年を守るように抱き抱えながら走り去って行ったのだった。その光景に美優は怒りを覚える。
(こんなことがまかり通るなんて...)
「聖女様、後であなたには罰を受けてもらいますよ。」
ジオロールは美優を睨みつけながら言い放つ。どうやらこの国の問題はとても大きく、醜いものであるらしい。
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