第10話 魔王
「通信魔法、コール」
ケルベロスの左の頭である長女は司が屋敷の方に行くとすかさず魔法を発動する。この魔法は文字通り、遠くの場所にいるものと話が出来る魔法だった。
『どうしたんですか?ケルベロス』
ケルベロスの頭の中に女性の声が聞こえる。魔法が成功したことに安堵しつつケルベロスは早急に要件を伝える。今はまだ再生仕切っていないものの兄が再生されてしまったら面倒だった。
「シェリア様、巨大な邪力を持つ人間が現れました。総量では失礼ながらシェリア様よりも上かと。」
『なるほど、わかりました。そちらに向かいます。』
するとケルベロスの目の前に紫や黒が混じったような楕円のようなものが現れる。その中から1人の女性が現れた。紫色のウェーブがかかった髪、綺麗な顔立ちをしているが頭の角や腰から生えている髪と同じ色の翼が人間では無いことを物語っている。
「ケルベロス、それで邪力を持つ人間というのは?」
女性は淡々とケルベロスに問いかけるが、次の瞬間、後ろを振り返り屋敷の方を確認する。屋敷の中から濃い邪力の気配がする。
「もしや...あの中に?」
「はい...おそらく魔王かと。」
シェリアは冷や汗をかくのと同時に希望を感じている。あの屋敷の中の主ならきっとこの世に破滅を導いてくれるのだろう。
しばらくして中からイエナを引きずりながら司が現れる。イエナは何かブツブツ呟いているようだったが、何を言ってるのかまでは聞こえない。
司は外の状況を確認する。どうやら約束通り奴隷の3人は無事のようだった。
そしてケルベロスの他にもう1人新しい人物が目に見えている。
「お前は誰だ?」
「はい。私は現在魔王代理を務めさせていただいております。シェリアです。以後お見知りおきを。」
シェリアは片膝をつき丁寧に司に挨拶をする。少し不思議そうな顔をする司に続けてシェリアが言葉を続ける。
「貴方様には魔王として魔王軍を指揮し、人類を滅亡させて欲しいのです。あなたにはその力があります。1度魔王軍が滞在している魔王城に来て頂けないでしょうか?」
司は少し考える。正直この後どうするかはあまり考えていなかった。ただイエナとあの国王共は遊んだ後に殺すことくらいしか思っていない。ただまあ...世界を混沌にするのも悪くは無いとは思う。
「軍を率いるのは好かん。魔王にはなってやるが指揮はお前が今まで通り取れ。それに...滅ぼすなら全てだ。」
「…ハイ!ではまずは我々に挨拶してください!貴方様なら全員が魔王であることを認めましょう!」
シェリアは笑顔になり、早速移動しようと転移の魔法を作動しようとするのだがそれをケルベロスの長男である真ん中の頭が止める。どうやら再生も終わったらしい。
「待ってください、シェリア様!たかが人間の指示に従うと言うのですか!?」
「兄さん!!やめてください!すみません魔王様、私から兄にはきつく言っておきます!」
「クゥ〜〜ン...。」
三者三葉の反応を示す。長女と次男?は司が魔王になることに賛同しているようだが長男は反対しているらしい。
だから司はケルベロスの長男の前に立つと右腕を挙げる。みるみる右腕が伸びていきそのまま長男の頭を掴むと地面に叩きつけて頭を押さえつけた。
「ああ、別に問題ない。ただお前だけは邪魔だな」
「く、離せ...!」
司には見えていた。右目が邪力の流れを確認している。胴体から3つに別れて頭に邪力が流れているイメージ。だがその質がそれぞれ違うから頭がそれぞれの意志を持つ。
だから長男の質を形成していた邪力を消し去った。そしてそのままケルベロスの頭を引きちぎる。本来は引きちぎられた部分が回復するはずなのだが...回復することはもうなかった。
「これで邪魔者は消えたな、シェリアと言ったか?俺を連れて行ってくれ。」
シェリアは頷くと先程と同じようなワープの空間を魔法で形成する。どうやらその空間を通れば目的地につくらしい。司は歩みを進めようとすると、4番が司の服を掴んだ。
「ああ、君たちのことを忘れていた。俺はこれから君たち人類の敵になるだろう。願うのなら今殺してもいいが。」
3人は考える。1番楽なのはここで殺されることかもしれない。奴隷である自分たちは人間の社会での地位向上は望めない。
「つ......れてっ...て」
4番は涙を流しながら掠れた声で伝える。初めて4番の声を聞いた。その声は風の音でも掻き消えそうなほどか弱いもの、それでも司の耳には届いた。
それに続いて他のものたちも司に近づいた。
「僕も連れてってください。」
「あんな人間がいるような場所に戻りたくありません。復讐がしたいんです。」
司は3人の意志を汲んだ。なら連れていこう例えそれが修羅の道だったとしても。司は邪力を3人に纏わせる。先程まで使った命を奪うものとは違い、元々彼らにあった聖力を邪力に置き換えるように操った。すると3人の頭に角、背中からは翼が生え、瞳も黒くなった。
「あと3人...いやこいつを含めれば4人連れていくが?」
「構いません。魔王様の御心のままに。」
「ああ、そうだこれだけはやっておこう」
司は思い出したかのように右手に邪力を集中させる。すると黒い球が手のひらに出現した。それを上空に投げつけた。
「さあ、行こうか。」
司はそれだけ言うと、シェリアが作ったゲートを通る。それに続いて他のものたちもゲートを通るとやがてその場には誰も残らなかった。
司が投げた黒い球体は上空で広がるとやがて黒い巨大な雲を形成する。スーレン家が納めていた領地を覆うほどの黒い雲からやはり同じ色の黒い雨が降り注ぐ。
黒い雨はスーレン家が納めた領地からあらゆる命を奪っていった。それは生物も無生物も関係なく命を吸い尽くす。やがて全てのものがなくなりその場所には何も残らなかった。
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