第9話 スーレン家

「まずは防衛に専念しろ!この後攻め込むぞ!!」


 イエナの兄、イカルガが指示を出しながら魔物の犬、魔犬達を殺していく。スーレン家は国の端に位置し、国外の森から魔物たちが攻めてきた時に最初に対応する。そのため個々が日頃から訓練して魔物たちと戦えるようにしていた。

 ただ今回の襲撃は激しい、そして数も多く防戦一方という感じだった。


「フレイムウェーブ」


 イエナも魔法を発動する。炎の波が魔犬達を飲み込む。今戦っているのは30人程度だが、イエナのような広範囲の魔物を殺せる魔法を使えるものも多く、この人数でも対応が可能だった。今までは...。


「ワォォォォォーーーンンンン!!」


 屋敷の外から遠吠えが聞こえた。すると魔犬達が退散していく。イカルガ達はその姿に1度安心して体制を立て直そうと会議を始める。


「いいか、敵は数が多い。しかも城壁にいたものたちもこの様子ならやられただろう。魔法で王国に依頼は飛ばしたがいつ来るか分からない。だからそれまで耐えよう。籠城だ。」


 作戦が決まり、全員が体力を回復するため休憩している。


「お兄様、外にいる奴隷達が生きているのなら連れていきたいのですが...。」

「奴隷なんていつでも買えるだろ!!今は命が大事だ!!」


 この期に及んでまだそんなことを言っているイエナにイカルガが怒りをぶつける。

 実はイエナは司のことを気に入っていた。顔が好みであったし、ここまで追い詰めてまだ屈服していないのが、初めてだった。だからこそ屈服させるまでは手放したくは無かったのだが仕方がない。

 イエナはもう新しい奴隷のことで頭が一杯になった。


「イカルガ様...あれは......?」


 使用人の1人が家の入口を指さす。すると13番が入口から入ってくるのがわかる。ただ失われたはずの右腕には黒い腕が生えていた。


「あら、13番!!まさか他の奴隷は見殺しにしてきたの?」


 イエナが13番の姿を確認した瞬間、煽り出した。ここまで来てもイエナの様子は変わらない。ここまで来ても頭が弱いらしい。


「まだ状況が理解出来ていないのか?」


 司は右手の人差し指をイエナの方に向ける。そのまま人差し指を上から下に振るうと...イエナの左腕が切り飛ばされた。


「いやぁぁぁぁ!!」


 左腕が焼けるように熱い。切られた腕を抑えながら地面に蹲るイエナ、それを見た司は笑いながら続ける。


「アッハッハッハッハッ!まだ死んでくれるなよ!!まだお前で遊び足りないんだ!!」

「総員!奴を殺せ!!」


 イカルガが全員に指示を出す。それに合わせて全員が前に出る。もう全員が司のことを敵と認識したのだった。


「イエナ以外は興味が無い。殺す理由は無いが生かす理由もないな。」


 一際濃い邪力が司の体から放出される。それだけでイエナ以外のものたちが年老いていき、ついには死に至った。

 司は軽く跳ぶ、それだけでイエナの目の前に現れた。右腕でイエナの首を掴む。


「くっ!!やめ...て......」

「ああ、俺が飽きたらやめてやる。」


 そう言って首を離すと、邪力が首輪と鎖のような黒い形状になり具現化した。司はその首輪を引っ張り、イエナを引きずりながら屋敷を出るのだった。

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