第8話 幕開け

 司は今、万能感に満たされている。邪力を放出するとある程度周りの状況がわかった。どうやら普段壁で魔物たちの様子を確認していた衛兵たちは全員殺されていたらしい。

 屋敷内では魔物の犬が攻めに入ってはいるもののイエナ達は強く、実力は拮抗しているようだ。数では魔物側、個々の実力がイエナ側に軍杯が上がると言ったところだろう。


「だがまずはだなぁ」


 邪力が司の右腕に集中する。するとだんだん黒いモヤが司の無いはずの右腕を形成していく。やがて黒く鋭い右腕が生み出された。

 この調子で右目も形成していく。人間の目とは違い全てが黒い瞳、ただ人間の目よりもより多くのことが見える。聖力、邪力、魔力が瞳に映っているがそれが何なのかはまだ司には分からなかった。


「お前は...人間なのか??」


 ようやく口を開いたケルベロス、その声は震えている。答えは決まりきってはいるものの今はとりあえず奴隷たちの首輪をどうにかしよう。

 ケルベロスに殺されて4番に加えあと2人しかいない。

 司は邪力を3人の首輪に集中させる。すると首輪は崩れ落ちた。よし、次はイエナたちだ。あいつらには世話になった、だから俺も遊ぼうと思う。


「おい!無視するな!!」

「伏せ」


 こちらにはこちらのやりたいことがあるのだ。ケルベロスの怒りの声を1つの命令で制止する。次の瞬間にはケルベロスは頭が地面に着くほど地に伏せていた。


「攻撃したことは許してやる。だが邪魔するようなら殺すぞ。」


 司がケルベロスを睨みつける。右の頭は怯え、左の頭は冷や汗をかきながら逃げる術を考えていた。そして真ん中の頭とは言うと...。


「ふざけるなよ!にんげ━━━━━━━━━」


 真ん中の頭が勢いよく起き上がり司に襲いかかろうとした瞬間、左の頭がその真ん中の頭を噛みちぎったのだった。

 首が地面に転がるが、真ん中の頭は噛みちぎられてから少しずつ再生しているようだった。


「うちの兄が申し訳ありません!私共にあなた様と戦う意思はありません!どうかなんなりとご命令を!!」


 ケルベロスは3つの頭にそれぞれ意思が宿っている。この3つの首を切り落とさなければケルベロスは殺せない。だが長女である左の頭はそれが司にとって簡単なことであるのがわかってしまったのだ。

 長女は完全な降伏を申し出た。


「そうか。話が通じそうで助かる。じゃあ今攻めている犬どもを屋敷の周りに配置しろ。屋敷の中の人間は俺が全員殺す。誰一人逃がすな。」

「ハイ!わかりました!!ワォォォォォーーーンンンン!」


 司の命令を即座に受け、命令を込めた遠吠えをする。すると屋敷の中から段々と魔物の犬たちが外に出てきた。

 これで準備は整った。あとは奴らとどう遊ぶか考えながら屋敷に向かう。だが1つ伝え忘れたことを思い出し、ケルベロスの方を振り向く。


「ああ、その3人は生かせよ。もし殺すようなら...魔王軍とか言ったか?全員滅ぼすから」


 それだけ伝えると歩みを進めていく。ケルベロスは勢いよく頷く。人間ではある。多分魔法もまだ知らないような人間なのは見れば分かる。でも勝てない。

 それは奴隷達にもそう映っていた。彼らに恐怖を植え付けながら司はイエナに絶望を教えに行くのだった。

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