第6話 異変

 目が覚めるとまたいつものように小屋の景色が映る。昨日の司の様子を思ってか傍で4番が眠っており頬には涙の跡がついていた。不幸中の幸いなのはイエナが約束を守ってくれており、4番に鞭で打たれた様子はないようだった。


 ━━━━━━━━殺せ。


 頭の中に文字が浮び上がる。少しの頭痛を覚えながら司は頭を押さえる。殺せ、その言葉がだんだんと司の頭を支配していくようだったのだが、なんと抑えつける。

 ただでさえ人を殺した夢を見るのに夢から覚めてもこの感覚になるのは冗談じゃない。


「4番、起きな。使用人にバレる前に。」


 左手で4番を揺すりながら優しく起こしてあげる。だがそれよりも巨大な声が奴隷小屋に響き渡る。


「全員!!直ちに畑に集合しろ!イエナ様がお怒りだ!!」


 全員が起き上がり、使用人の指示に従う。従わなければ電気が流されるのだ。司も4番を起こしながら畑の方に集合する。


 畑に着くと奴隷が1列に並ばされる。その目の前にはイエナと2人の使用人が立っている。使用人は剣を持っておりおそらく護衛なのだろう。

 そしてイエナが何に怒っているのかはもうわかっていた。畑を見ると1部枯れている部分があるのだ。育てている作物は昨日まで順調に育っていたのは全員が知っている。それを一晩で特定の畑が枯れてしまうというのは異常事態だった。そしてその特定の畑というのが...司が耕した畑だった。


「担当者は名乗りを上げろ」

「俺です。」


 イエナが怒りを込めて尋ねる。司は正直に言う。だが司にも勝算はあった。なぜなら作物は一晩で枯れたことが分かりきっている。実際使用人が全員の畑の進捗を報告するのだ。枯れたとしたら昨日の晩、しかし昨日の晩は司はイエナと共にいた。

 だがイエナの顔は不快な笑みを浮かべていた。関係ないのだ、アリバイがあるとかないとか、彼女にとって大事なのは司を狙う口実だったのだ。


 イエナは特殊な感情を持つ。略奪愛でしか興奮しないのと同じように自分が好きになった相手を壊したくなってしまうのだ。それが異常とまでは言わないが、それでも周りに理解はされない事を重々承知の上だ。だからこそその感情の発散は奴隷に向かう。


「聞けば...13番は4番の手伝いもしてるのだろう?」


 イエナの声を聞き、司の背筋がゾッとする。ここに来て4番を絡めてきたのだ。きっと4番を昨日のように人質のような要求をするのではないだろうか。


「13番の罰は4番を犯すことにしましょう。4番への罰は犯されること。もし嫌なら4番は13番以外の奴隷に輪姦されるのはどう?」


 ただただ人をおもちゃだとしか思っていないような発言、司はイエナが気持ち悪かった。気づいた時には司はイエナの方に走り出した。

 電気が身体中に流れるが今はそんなことどうでも良かった。今はとにかくこの悪意の塊のような女を殴り飛ばしたかったのだが、2人の使用人が司の体を取り押さえる。


「おや?抵抗するのかい?じゃあ他のもの達に犯させることにしま━━━━」

「魔王軍です!!!」


 イエナが他の奴隷に命令しようとしたその時だった。大きな声がイエナの家の敷地内に響き渡ったのだった。

 イエナの家は王国の外れであり、魔物たちの侵攻を抑える役目もあった。特にイエナの兄はその高い実力も王国に認められているほどだった。故に邪力を扱う魔物たちとは常日頃から戦っている。家も戦いに適するように高い壁に囲まれているのだが...今回の魔王軍の侵攻はいつもと違かった。


 ━━━━━━━━━━ドガンッッッ!!!


 巨大な物音と共に高い壁の一部が砂煙を上げながら破壊されたのだった。やがて砂煙も上がるとそこには人一人なら一口で食べられそうな犬の頭を3つも持つ大きな黒犬、ケルベロスが立っていた。


「ワォォォォォンンンン!!」


 ケルベロスの雄叫びを合図に犬の魔物達が一斉に敷地内に侵入してきたのだった。

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