第5話 4番と13番

 ━━━━━━━━━滅ぼせ


 当たりは燃えている。どうやらここは前の世界らしい。街並みが以前見ていた安心するような景色だった。だがいつもと違うのは辺りに血が撒き散らされており、ところ構わず人間の死体が転がっている。

 美優と約束したはずだった。ヤクザに所属していた時に鉄砲玉として沢山の人を殺した。だから今度はその手で人を救うのだと。だがそんな約束も忘れて司は人間を殺し続けていた。そして1人の人間の胸を左手で貫いた。地面には血溜まりができ、司の顔が映し出される。そこにあるのは酷く醜い笑顔だった。


「起きろ!13番!!」


 司は目を覚ます。この家に来てから名前などなく番号で呼ばれる。司は13番だった。身体中汗で濡れていた。おそらく先程の悪夢の影響だろう。最近はこんな夢ばかり見てしまう。呼ばれた司はまたいつも通り作業を開始する。


 食事と呼べるようなものは夜に支給される腐ったパンのようなものだけであり、一日中畑で働かされる。司は4番と呼ばれる少女の分も少し手伝っている。でなければ彼女が鞭で打たれてしまうからだ。

 汚れたこの手の届く範囲でも人を救う。それが司にとって美優との約束だった。いや彼女は覚えていないかもしれない。彼女は優しすぎる。元の世界でも正しく聖女のような人だった。そんな人と結婚出来たのに今は、夜にイエナに呼ばれて性行為を強要される。

 事が済んだら用済みでまたこの小屋に連れていかれる。そんな日々がもう1ヶ月ほど続いていた。


 そんなある日のことだった。仕事も一段落つき、全員で食事を取っている時に4番が駆け寄ってくる。手にはパンを2切れ持っていた。だが支給されたものとは違う。どうやら以前から貰っていたパンを隠して持っていたらしい。


「……」


 少女はどこか悲しそうにでも必死に笑顔を作りながら口を動かす。ただ声は出ていない。そういえば鞭で打たれていた時も悲鳴すらあげていなかった気がする。でも気持ちは伝わった。

 4番くらいの歳の子供なら日本では健康な食事を取り、元気に遊びまわるのが普通だった。でも4番にはそれが叶わず、酷く痩せこけている。それにも関わらず彼女は自分の食事を我慢してまで司にお礼をしようとしていた。

 口の動きでわかった。「いつもありがとう」彼女はそう言いたかったんだと思う。


「そうだなぁ、俺は君が元気になってくれる方が嬉しいよ。このパンは君が食べな。」


 でも受け取れない。司はパンを返しながら少女の頭を撫でる。少女は嬉しそうに笑いながら涙を流していた。奴隷として今まで働いてきてここまで優しくされたことがなかった。少女は司に父親のような感覚を覚えていた。だがそんな感覚も司から笑顔が無くなることで終わってしまう。


「ごめんな、俺はまだ仕事が残っているんだ。」


 命令を無視したら電流が流される。余程のことがない限り殺されはしないであるにしても司にはこの世界に一緒に転生した家族を守りたいという思いもある。今はとりあえず我慢の時間だった。

 司は重い足取りでイエナの部屋に向かうのだった。




 いつも通り司はイエナの部屋に入ろうとしたら別室に連れていかれた。反抗も出来ないので、言うことを聞いている。しばらくして使用人に呼ばれイエナの部屋の中に入る。いつも通り見慣れた光景、だがいつもと違うのはそこに4番もいた事だった。


「いつも私が動いてばっかでつまらなくてな。お前が反抗しているのはわかる。だが今日は動かなかったらこの4番が鞭を打たれることになるからな」


 悪魔のような言葉に司は絶望してしまう。せめてもの抵抗だった。動かないことが美優に対しての罪滅ぼしだと思っていたから。でも...ここで4番を見捨てるようなことはできなかった。

 司は涙を...いやいつしか涙は透明ではなく、血涙を流しながら腰を動かすのだった。

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