第3話 香織の道

 一方、香織もまた別の部屋に連れてかれていた。周りには兵士たちもおり、逃げ場はない。連れてこられた部屋は先程の広間より狭い部屋だが、そこよりも豪華で高そうな物が飾られている。真ん中に机がありその両端に長い椅子がある。


「座れ」


 香織は命令されると、それに従い椅子に座る。すると向かいに金髪の顔の整った男性が座る。そのほかの周りのものは立ったまま話を聞いている。


「僕はサルベキア王国の第1王子、ルキア・サルベキアだ。」


 笑顔で自己紹介をしてくる。王子と言ったら偉いことくらいは香織にもわかる。だがこういった仕打ちを向こうがしてきたのだ。慎重にならざる負えない。


「ところで君は...聖女、あの女性の娘か何かかかい?」

「…娘ですけど」


 質問に慎重に答えていく。香織も多少はアニメを見ていた時期がある。その点だと司や美優よりも今の状況に詳しい。

 いわゆる異世界転生をしてしまったのだ。そして母が聖女で自分や父はおそらくこの世界に転生する必要がなかったのだろう。だから父は電撃を流されどこかに連れていかれてしまったのだ。

 だが自分が今、王子と話しているのは...。


「やはりそうか。そしたら君の役目は決まった。僕と結婚して子供を産んでもらう。それに伴い、学院に通ってこの国の教養や魔法の基礎についても学んでもらおう。」


 やはりそうか。力はなくても聖女の娘、それに母は40代後半、ルキアと結婚するには少し老けている。それならばルキアと年が近そうでかつ聖女の血を引く香織が結婚して子を為す方が良いという判断なのだろう。


「嫌だと言ったら?」

「ああ、これは命令だ。断ることは出来ないよ?」

「きゃぁぁぁ!!」


 王子が笑顔で香織の問に返答した瞬間、香織の首輪から電気が流れた。


「こんな痛い目には合いたくないだろ?君は大人しく言うことを聞いてくれればいいんだ。」


 香織は自分の現状に涙を流す。すると隣の兵士たちが香織を抱える。どうやら別室に連れていかれるようだった。


「安心してくれ。酷い命令はしないさ。」


 王子の言葉が耳に届く。そんなことを言うのなら早く父と母に合わせて欲しい。そんなに思いが通じるはずもなく、香織は別の部屋に運ばれるのだった。




 そこからはメイドが色々行ってくれた。ご飯を用意してくれたり、トイレやお風呂の案内まで。特に不便もなく生活ができた。ただやはり頭ではずっと家族のことを考えている。

 母は大丈夫だろう。聖女なのだからそんなにひどい仕打ちはされていないはず。問題は父だった。父に関しては生かしておく必要がない。だからこそ奴隷という言葉が出たのだろう。遅かれ早かれ1番死ぬ可能性が高いのは父だった。


「とりあえず、寝よう。」


 ただ今のままでは彼女は何も出来ない。できることがあるとしたら学院に通ってもらうと言っていたのでその学院でこの世界のことを知ってからだ。大人しく就寝しようとしたその時だった。


「やあ、起きてるかい?」


 ノックもせずにルキアが入ってきた。香織は敵意を露わにするのだが、そんなことを気にも止めずにルキアが近づいてきながら...服を脱ぎ始めていた。


「初夜を済ませよう。君には僕の子を産んでもらわなければいけないんだ。」


 香織の背中に悪寒が走る。そんなこと嫌だった。好きでもない、むしろ嫌いな相手と行為をするというのは。それに香織はまだしたことが無い。初めてはお互いに好きになったものでと決めているのに。


「近寄らない...きゃぁぁぁ!!」


 拒絶しようとした時、香織の体に電流がまた走った。近づいてきたルキアは香織の体を押さえつけながら上にまたがった。


「君に拒否権はないんだよ。」


 その後のことは覚えていない。いや心の奥に封じ込めてしまった。ただ初めて感じる痛みと涙を流したことだけが香織の感覚に刻み込まれていた。

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