第十羽「フルータの事情」

リンゴを食べ終えた後、私はフルータさんに話しかけた。出発の準備を整えているフェリテには聞こえないよう声をひそめて。

「あの、最後に教えてもらいたいことが」

「なんだい?」

「ハルピュイアけのすず、どうして鳴らさなかったんですか?」

本来ならいつ鈴を鳴らされてもおかしくない状況じょうきょうだった。彼女かのじょには声の主がハルピュイアだとわかった時点で鳴らすという選択せんたくもできたのだ。

「……本当は、はじめっからあんたを傷つけるつもりはなかったんだ」

フルータさんは少し大きな声で言った。まるでフェリテにも聞かせるように。

「あたしが管理している果樹園をね、ハルピュイアにらされたことがあるんだ。過去に何度も」

「やっぱり……」

にくまれて当然のことを私の仲間はしていた。きちんと謝ろうと口を開くも彼女の方が早かった。

「あんたの表情を見て、この子は間違まちがいなくあのハルピュイアどもと違うと思った。それでも、もう一人の自分がハルピュイアという生き物を許さなかったんだ」

許せなくて当然だ。大事に育てているものを荒らされたら誰だっておこる。

「でもあたしは間違ってたよ。憎むべきは直接荒らしたハルピュイアどもだ」

フルータさんは私のつばさを優しくなでた。

「さぞかし痛かったろう。本当にすまなかったね、ロンディ」

「良いんです。むしろお礼を言わせてください」

「えっ?」

彼女はもちろん、フェリテもおどろいている。

「フルータさんがハルピュイアを憎むのは当然のこと。それなのにこんなに親切にしていただきました。本当にありがとうございます」

「ロンディ、きみ優しすぎるよ」

「あたしもフェリテに同意するね」

二人の意見がそろったことに私は少しだけうれしくなる。

最初は対立していたのに仲良くなったってことだから。

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妖精と空へ飛び立つハルピュイア チェンカ☆1159 @chenka1159

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