成人式とトウモロコシと原初の火
俺の部屋のトイレに鎮座していたふわふわ羽根つき蛇はあろうことか18代目ケツァルコアトルと名乗った。
何やら新しい世界を作るためにトイレの配管を対消滅炉とかいうものに繋いだところ、リミッターが誤作動して異世界に転移してしまったらしい。
対消滅炉って何だ?とか何故トイレの配管をそんなものに?といった疑問が次々湧いてくるものの、魅惑のショタボイスでしゃべる掌サイズの空飛ぶ蛇の「てへぺろ」などという珍妙なものを見てしまった衝撃で、すべての疑問が宇宙の彼方にすっ飛んで行ってしまった。あれを回収して来るには56億7千万光年はかかりそうだ。
唖然としているうちに今度は便器からやたらと色っぽい女が出てきて、俺の頭はオーバーヒート気味。
「もう、人のトイレに勝手に手を出しといて、変な誤作動起こさせないでよ」
真っ黒なルージュを塗ったぼってりとした唇を尖らせ、ほっそりとした腰に手を当てて女が色っぽい声でぼやく。
便器から上半身だけ出たまんまで。
「ひ......人のトイレって......ここ俺ん家ですよね? というか、どちら様?」
「あたしはトラソルテオトル、またの名をトラエルクアニ。不浄と浄化、豊穣の女神よぉ。あたしも一人前になるためには自分の世界を作んなきゃいけないから、あなたのおトイレから排泄物をちょうだいしてあたしの世界の穀物の大本を作ってるとこなの。トウモロコシとかトウモロコシとかアマランサスとか」
……排泄物から生み出したトウモロコシ。なんか食べる気しない。
いやまぁ、日本でもオオゲツヒメの死体と排泄物から五穀ほかあらゆる作物が生まれたわけで。
どこの国でも地母神信仰は排泄物と密接な関係にあるのだから、毛嫌いするのも良くないんだろうとは思う。
それにしても神様って本当にいるんだな……
いや、そんなことより、どうしてもハッキリさせなければならないことがある。
「えっと……なぜうちのトイレ?? 排泄物の量がたくさんいるなら3丁目の佐々木さんちの方が良いんじゃ? あそこ3世帯10人家族だし」
「それはだな、お前が『快眠快便』スキルの持ち主だからだ」
ドヤ顔で答えたのはケツァルコアトルの方だった。
「毎日決まった時間にほぼ同じ量のウ〇コを生産するからな。エネルギー供給は量が多いことよりも量が安定している事が大切なんだ。佐々木さん家はご主人の勤務が不定期な上、おばあちゃんが便秘気味だから1日のウ〇コの量が安定せず使い物にならん」
「エネルギーを継続的に利用する時ってね、ちゃんと一定の範囲で安定した量が確保できないと事故の元なのよ。少なすぎたらダメなのは当然だけど、一時的に多すぎるのもダメなの。ほら、何年か前に九州で『大規模停電が起きかねないから一部の太陽光発電を停止するように』って通達でて騒ぎになったでしょ。需要を極端に上回るエネルギー供給があると、エネルギーを制御できなくてエネルギー供給システムそのものが壊れたり、思わぬところに暴発したりしちゃうのよ」
「乾電池で動かす前提で作られてるおもちゃにいきなり電気ネズミの10万ボルト当てたら、動くどころか壊れるだけだろ? それと同じだ」
二人の神様が交互に説明するがいまいちわからん。
「とりあえず、お前の生活が規則正しくて、毎日決まった時間に決まった量のウ〇コをするからこの家のトイレが我々にとって好都合なんだってことだけわかってくれればいい」
「ね、あたしたちがちゃんと一人前の成人って認められるためにも協力してくれない?」
「成人っていうより成神だけどな」
代わる代わるに言われて納得しかけた俺は、肝心の疑問をそのままにしている事に気付いて口にした。
「な……なるほど。とりあえず規則正しい生活で決まった時間にほぼ同じ量のウ〇コが必要になるのはわかった。しかし、そもそもなんでウ〇コにこだわらにゃならんのだ?」
そう。
この二人(?)がどうしても譲れないらしいこの一点。
なぜ天地創造するのにウ〇コに固執するのか。
俺にはどうしても合点がいかないのだった。
【次回予告】
なぜかウ〇コにこだわる
彼らは無事成”神”式に出ることができるのか?
ウ〇コが多すぎると異世界に転移する不具合はいつなおるのか。
次回「ウ〇コとインフレーションと再生可能エネルギー」
薬局で消臭力を買いあさりながら待て!!
脱糞戦記 歌川ピロシキ @PiroshikiUtagawa
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