第二十八話 寝酒
広海もまた布団に入っても寝つけず、起き出して酒を飲みはじめていた。また、真帆に寝酒は良くないと叱られてしまうな、と思いながら。
凪が龍宮に残ると即断してくれることを、広海はどこかで期待していた。
その期待は外れてしまったが、落胆よりも自嘲の念のほうが大きかった。
凪が悩むのは当然だ。どれほど龍宮になじんでいるように見えても、凪は人間なのだ。辛い思い出が多かったとしても、生まれた場所に、本来生きるべき場所に戻れない――正確にいえば一生のうち二か月程度しか戻れないということが、重荷にならないはずがない。
だが――もしも理由がそれだけではないとしたら。
臣下たちに調べてもらったかぎりでは、銛田家に凪の味方はいなかったようだ。銛田一族が凪を罵ったり殴ったり蹴ったりしていたのはもちろん、使用人たちも見て見ぬふりをするか、同様に凪に暴力をふるうか、凪が銛田一族に暴力をふるわれるようにしむけるかのどれかだったらしい。
だとすれば、ほかに凪が悩む理由として考えられるのはたったひとつだ。広海の胸は万力で締めつけられているかのようにぎりぎりと痛む。
龍宮に残れば、凪は父親と会えなくなってしまったことをどこかで悲しみつづけるだろう。陸に戻れば、いつまでも父親を探しつづけるだろう。
どちらのほうが凪にとって幸せなのだろうか。
それとも――どちらも幸せではないのだろうか。
ひとの幸せを決めつけるなんて傲慢なおこないだとわかっていても、凪にはできるかぎり笑っていてほしかった。
自分の沈痛な顔が映った、かすかに黄味を帯びた液体を飲み干し、広海は再び盃に瓶の中身をついだ。
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