第二十六話 嫉妬
時は少しさかのぼり、凪と広海が最初の街に着いたころ。
薬を調合していた真帆は、ため息こそついていなかったものの、「暗」の思いにとらわれていた。――嫉妬という名の思いに。
今頃、陛下と凪さんは身を寄せ合って景色を眺めてるのかしら。それとも、肩を並べてどこかの街を歩いてるのかしら……。
仲睦まじい二人の姿がいやでも脳裏に浮かび、胸が締めつけられるように苦しくなる。
色恋沙汰に敏感な真帆は、二人が惹かれ合っていることに気づいていた。というより、はっきりと認識していないのは本人たちだけだろう。
陛下が凪さんに惹かれるのは当たり前だわ。凪さんは綺麗で素直で優しくて料理上手で……ひねくれ者で
必死に自分を納得させようとする真帆だったが、心においても、作用があれば反作用があるものだ。
でも、あたしは生まれてからずっとここに……陛下のおそばにいるのに。凪さんよりもずっとずっと長いあいだ……陛下のことを想ってるのに。
どんなに長いあいだそばにいても、相手を想っていても、相手も自分を想ってくれるとはかぎらない。むしろ、長いあいだそばにいたからこそ異性として見てもらえなくなることもある――今度はそんなふうに自分を納得させようとしたが、もう何の作用ももたらされなかった。視界を霞ませる涙が薬に落ちないよう、ごしごしと袖で目をこする。
もうすぐ、陛下は凪さんに選択のことを話すはず……。凪さんがどっちを選ぶかなんてわかりきってるわ。そうしたらきっと、陛下と凪さんは種族を超えて結ばれてしまう。いくら馬鹿みたいに誠実な陛下でもあのことまでは話さないでしょうし……ううん、たとえ話したとしても凪さんだったら……。いっそ、凪さんが龍宮に来なければよかったの……?
とうとうそんなことまで考えてしまい、
あたし、何ていやな鮫人になっちゃったんだろう。陛下が愛するひとと結ばれることを祝福できないの? 凪さんがあのまま銛田家でこき使われていじめられてればよかったっていうの?
強烈な自責の念に駆られ、右手を握りしめて左胸に押し当てた。
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