地デジから脳デジへ(短編)
藻ノかたり
地デジから脳デジへ
テレビの画面には、砂嵐のような映像が流れている。男はその前に座り、画面をボゥーっと見つめていた。
「むかしアナログ波からデジタル波に替わった時も、こんな感じだったのかなぁ」
三十の坂を越えようとしている、痩せた男がつぶやく。
これからテレビは、脳内に直接映し出される事になる。目をつぶって手元のリモコンを操作すれば、頭の中全体が「テレビ」になるのだ。いわば究極の3Dテレビといえるだろう。
「しかし、それでいいんだろうか」
何せ、脳の中に直接情報が送り込まれてくるのだ。健康面は勿論、何か他の事柄についても心配になる男であった。
「知らない内に俺の脳内へ何か変な情報が送られてきたり、逆に情報を取られたりする事はないのだろうか。政府は絶対安心だと言うし、評論家のほとんどは”このシステムを拒むのは変化を恐れる愚か者である”と言ってるけれど……」
男は古いテレビの電源を落とし、目をつぶって手元の「脳内テレビ用リモコン」を操作した。すると頭の中に、立体的な映像が流れ出す。愛想の良い若い女性が現れ、この新しい製品の説明をはじめた。
男は最初あまりのリアリティに戸惑ったが、時間がたつにつれその映像に没頭していく。女性の姿が映し出される前に、一瞬流れた意味不明の映像の事などとうに忘れて。
地デジから脳デジへ(短編) 藻ノかたり @monokatari
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