第2話 チート能力をください

その夜、料理動画を見て寝転がっているとインターホンが鳴った。


何日か前に通販で買った高級ステンレス包丁だ。


「これがV金10号のダマスカス包丁か…」


受け取るとすぐに箱を開けた。


刃はダマスカス鋼の蓄積模様がくっきりと浮かび上がっている。




V金10号とは炭素鋼とステンレス、その両方の長所を兼ね備えた刃物鋼。


炭素鋼のように良く切れ、またステンレス鋼のように錆びにも強い、包丁には理想的な鋼!




悠斗は包丁オタク、いやステンレスオタクだ。


なぜか小さいころからステンレスが大好きで、給料のたびにステンレス製品が増えている。


ステンレスのフライパン


ステンレスバサミ


ステンレス包丁


ステンレス製コップ


もちろんスプーン、フォークもステンレス




ステンレスのシンクは極限まで磨かれている。まるで鏡のようだ。




スレンレスの冷たい感触と銀色の鈍い輝きが悠斗を癒した。


木の温もりなんて感じたらそれこそ孤独で頭がどうにかなってしまいそうだ。




吸い付くような握り心地。


久しぶりに心が踊った。


「よし、この包丁で早速料理をつくるか!」


腕まくりをして包丁を握り直すと、




包丁の刃に赤く読めない文字が浮かんだ。




そのすぐ後に、




たすけ…て




頭の中に聞いたことがない声が響いた。


すると真っ白な光に包まれた。




………




目を開けるとそこは森林だった。


薄暗く不気味だった。


なぜか手には買ったばかりのV金10号のダマスカス包丁が握られていた。




俺の愛するV金10号。


うっとりと眺めた。




眺め倒した悠人は、立ち上がると目線が妙に低くなっていることに気付いた。




「えっ?あれっ?」


驚いて声を上げると、声も少し高くなっていた。


もしかして、これが噂の異世界転生?


その割に神様とか女神様とか現れないんだけど。


チート能力とか授けてくれるんじゃないの?




「おーい、神様、女神様。」


空に向かって大きな声で呼びかけたがなんの返答もない。




持ち物はダマスカス包丁のみ。




とにかく日が暮れる前に人がいるところまで


出ないと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ステンレス包丁で村を救え!地味顔は美形らしいです キジシロ @kiji7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ