5.365段の石段と公営の温泉
伊香保温泉には、三百六十五段の石段があります。それを登らないと温泉には辿り着けません。
今回、どこの温泉に入るか決めていなかった私たちですが、とりあえず石段を登って見る事にしました。
「ぜぇ……ぜぇ……死ぬ、まじで死ぬ……」
平沼君は今にも死んでしまいそうなテンションです。
「「いやー、風情があるねぇ」」
私と丸田君は余裕綽々です。
「あ、飲泉所がある」
私は飲む温泉、いわゆる飲泉所を見付けました。
「飲んでみよー! 美容にいいかも!?」
柄杓<ひしゃく>で温泉を入れて飲んでみました。
「まっずい!! まずい!! 鉄の味がする!! おえぇぇぇ!!」
飲泉は鉄の味が強くてとてもまずかったです。横に水が出る所があったのでそれを飲んで事なきを得ましたが。
「ざまぁみろー!!!」
平沼君は大喜びです。どうやら二時間半の歩行と階段にやられて闇落ちしてみたいです。
飲泉所の近くに、公営の温泉を見付けました。
「もう……ここで良くないか……?」
平沼君が死にそうなので、公営の温泉に入る事にしました。
「「「じゃ、一時間後にホールで」」」
そう言い合わせて女風呂と男風呂に別れました。
公営の温泉とは言え、広々とした浴槽に黄金色の泉質。
「うわぁ、茶色の温泉初めてだぁ」
私は軽く感動していました。
「何かに効きそうだ」
歩きまくった足にしみこむ温泉。とっても気持ちがいいのです。しかも公営だから入浴料がお安い。とってもお得。
十分にお風呂を堪能してホールに戻ると、丸田君と平沼君はまだ温泉を楽しんでいるようで戻ってきていませんでした。
「湯上りのんびりできて良い感じ」
私は涼みながら一人の時間を堪能しました。
しばらくすると、男性陣が戻って来ました。
「じゃ、帰ろうか」
階段を降りる時は死にそうになっていなかった平沼君。
帰りの電車で高崎で一旦降りて、だるま弁当を買って三人で食べて帰って来ました。
丸田君は桶川で。平沼君は大宮で降りて行きました。
「楽しかったけど、この先一人って寂しいな……」
そんな旅の余韻の中、私は総武線市川駅へと戻って行きました。
***
これが二十代前半で伊香保温泉に行った時の思い出で。
この時平沼君にかけていた酷い言葉が、のちに特大ブーメランになって戻って来るとは思いもせず。
そして、二十代後半でまた私は伊香保温泉に行き、手厳しい洗礼を受けることになるのです……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます