4.バスが来ない!

 伊香保温泉(渋川駅)に戻ろうと、バスの時間を見ました。


「お、おい、お嬢、丸田君。バスは三時間以上来ないぞ!?」

「「えー」」

 

 何と、帰りのバスが全然来ないという悲劇。


「どうしようかー」


 と、三人で話し合います。


「歩くしかないんじゃない?」


 私と丸田君の意見は徒歩で帰るでした。平沼君は「歩くとか正気か貴様ら」とぶつぶつ言っていますが、バスが無いものは無いのです。タクシーを呼ぶだなんてブルジョアな事は思いつかないのも若さゆえです。


「「「じゃ、歩こうか」」」


 結局、伊香保温泉まで歩く事にしました。道は、バスで通った道を思い出しながら歩きます。


***


 一時間後。


 ひょろがりの私と細マッチョの丸田君は意気揚々として歩いていました。


「まっ直ぐ脇目も振らずに歩いて、パッと立ち止まって後退すると、景色が流れて見えるんだよ?」


 と、丸田君が妙な遊びを提案します。


「どれどれ……あ、ほんとだー! 景色が流れてるー!」


 私も乗っかります。


「貴様ら……何故そんなに元気なんだ……!」


 平沼君はぜぇぜぇ言いながら歩いています。とても遊んでいる余裕など無さそうです。


「平沼君はさ、太ってるからブヒブヒ言っちゃうんだよね?」


 私の毒電波が炸裂します。


「喉が……喉が渇いた……」


 平沼君は瀕死です。でも、道中自販機はありませんでした。


「もうすぐ着くからさぁ、頑張ろうよ」


 丸田君が懸命に平沼君を励まします。


 丸田君の「もうすぐ」発言から一時間。歩き始めて二時間。まだ伊香保温泉は見えません。


「もうすぐ着くんじゃないかなぁ?」


 丸田君は元気。


「あとちょっとだから平沼君も頑張れよ」


 私も元気。


「死ぬ……死ぬ……げほげほっ!!」


 平沼君は瀕死です。


 そこから三十分。結局二時間半歩いて伊香保温泉に到着しました。


 しかし、そこに着いた平沼君は絶望的な顔をしています。


 何故なら、目の前にそびえ立っていたのは果てしなく続く階段だったからです。

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