2.「何で指定された電車に乗らねぇんだ!」

 伊香保温泉に行く当日。


 その日は平沼君から「九時五十四分の快速ラビットの〇号車に乗って下さい」とメールが来ていました。高崎線に不慣れな私は、自宅をけっこう早めに出ていて、乗り換えの上野には物凄く早く着いていました。


「快速ラビットってさ、特急?」


 基本的に総武線と山手線で生きていた私にとって、高崎線は未知でした。快速を特急だと間違えるほどには、高崎線に慣れていなかったのです。


「特急だったら特急券が必要だよね? っていうか快速ラビットって何? 意味が分からない……」


 分からないならば平沼君に電話をすればいいのに、私はここで、大きな過ちを選択しました。


「何だか良く分からないから来た電車に乗っちゃえ♬」


 そうして、九時半くらいの高崎線に乗ってしまって、その旨を平沼君にメールしました。〇号車って所だけは守っていました。


 平沼君とは大宮駅で落ち合う予定だったのですが、大宮駅から〇号車に乗って来た平沼君はぜぇぜぇと肩で息をしています。


「お前……何で指定された電車に乗らねぇんだ!!」

「ほえぁ!?」


 どうやら、快速ラビットはただの快速の高崎線だったらしいです。平沼君は私のメールから乗った電車を特定し、急いで家を出て同じ電車の〇号車に乗って来たと言っていました。


「ごめんごめーん! 高崎線全然分からなくてさ!」


 私は悪いとか微塵も思っていませんでしたが一応謝りました。だって、高崎線に乗るのは初めてなんだもの。


 丸田君はその先の桶川駅から同じ電車に乗り込んできました。


「いやー、急に電車変わるから驚いたよねー」

「丸田、すべてはこいつ、お嬢のせいだぞ」

「だからごめんってばー」


 そんな、平沼君の神経を逆なでして始まった伊香保道中ですが、この日の平沼君の受難はまだまだ始まったばかりでした。

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