伊香保道中膝がくがく
無雲律人
1.始まりは友達同士のノリと勢いで
「あー、最近疲れが溜まってるわー。暇なのにー」
二十代前半のある日、専門学校時代の同級生である
「そんなに疲れてるならさ、温泉行かない?」
「はぁ? 温泉!?」
平沼君から唐突に温泉に誘われてしまった私は、さすがに動揺しました。
(いくらなんでも、男子とふたりきりで温泉なんてよろしくないだろう……)
これはデートのお誘いなのか? それとも私の事を女としては全く見ていないあれなのか? 判断に迷りましたが、ここで困った時の一撃をくらわす事にしました。
「丸田君も行くならいいけど?」
丸田君。
そう、丸田君はいつだって私たちの良きクッション材。人畜無害でチャラくもなくとにかく真面目。少しの不正も許しません! くらいの勢いがある真面目人間
「え? 丸田も誘うの? ならさ、日帰りで伊香保でも」
丸田君がいなかったら泊りで行く気だったのかよお前。というツッコミはしないでおきましたが、丸田君と三人で伊香保温泉に行ったら楽しそうだな、と直感で思いました。そもそも私は伊香保温泉に行った事はないのですが、平沼君が言うにはJR高崎線に乗っていれば最寄り駅まで行けるそうなのです。
平沼君は宇都宮線が最寄りで、丸田君は高崎線が最寄り。私は総武線が最寄りなので、どう考えても私が一番遠かったけど、暇潰しにはなりそうだったので、この話を進めることにしました。
その場で丸田君にメールをすると、やっぱりその時はフリーターだった彼から「行く行くー」とあっさりと返事を貰えました。そうして、男二人、女子一人の伊香保珍道中は幕を上げたのです。
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