最終話

 廃線となった地下鉄を魔法によって迷宮化しているのはアイホートという神様らしい。そう教えてくれたのは、他ならないあの一夜を共にした都寺隊長である。


「どうして神様の名前がわかったんです?」


「秘密」


 そうは言いつつも、隊長は友人の力を借りたらしい。なんでもイギリスの風土資料を所持していた書店員に話を聞いたらしい。なんと奇遇なこともあるもんだ。あるいは、その手に明るい書店員なのかもしれないが。


 で、神様の名前はわかったものの、自衛隊は事態を静観することにしたらしい。


「どうしてですか」


 いささか怒気をはらんだ声音だった感は否めない。だってそうだろう。かの神を放置しておけば、行方不明者は増える一方だ。


 そんな俺を見て、隊長は頭をかいた。


「君の気持もわかるんだけど、相手は神様だよ? 人間が立ち向かえるのかねえ」


「しかし」


「それに、上層部は神様の存在なんて信じない。もちろん、国民のみな皆様も。君だって、あれを見るまでは神様なんて信じなかったはずだよね」


「…………」


「そう怖い顔しないで。世界各地の特殊部隊は動く。対処療法のような感じだけれども、廃線となった地下鉄の出入り口を爆破するんだって」


「あいつらワープするのに?」


「でも、無尽蔵に行えるわけでもない」


「どうして断言できるんですか」


「できるのなら、犠牲者はもっと多いはず。地下鉄だけじゃなくて、薄暗い路地とかにでもあのワープゾーンをつくればいいだけじゃない」


「確かにそうかもしれませんが」


「あの神様を退散させる方法が見つかるまでの辛抱よ。何も私たちが動かないわけじゃないんだし」


「それはどういう……」


「秘密通路の破棄が決まったの。あんなのが現れるかもしれない場所、避難経路として不適切だってさ。で、私たちに処理依頼」


 思わず、うわあ、と声が出てしまった。


 正直なところ行きたくない。あの神様とかその子を見たくもない。


 だが、行かないわけにもいかないだろう。あいつらと顔を合わせたのは、俺と都寺隊長だけである。


 それに何より、超常現象がらみの事件に対応するのが、俺たち特殊作戦群第五中隊アマノムラクモの使命なのだから。

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古き地下鉄にうごめく蟲 藤原くう @erevestakiba

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