第14話

 体が爆風によって吹き飛ばされ、突きあたりの壁へと叩きつけられる――。


 その瞬間、あのワープの感覚が体を取り囲んだ。今までのものよりもずっと強い感覚。酔うという段階ではない。一度だけやったパイロット用の耐Gテストを数倍数十倍にしたような感じ。ぐるぐるぐるぐる。視界がまわる。世界がまわる。どっちが回っているのかは定かではないが、三半規管は確実に狂わされていく。


 世界はマーブル模様のように輪郭を融かしていき、ぐちゃぐちゃになる。そうしてできあがった景色は、ありとあらゆるジュースを混ぜたときのように、暗くよどんでいる。


 その世界の中に、泡立つ球体を見た気がする。あるいは、絶えず変化し、高次の世界で遠吠えを繰り返す犬のような形をした悪意ある霞かもしれない。


 だが、それらもまた、俺が見た幻に過ぎないのかもしれなかった。


 一瞬ののちに、俺の体はどこかから物質世界へと排出された。重力を感じる間もなく、床へと投げ出された。とっさのことに、俺は受け身を取ることができず――それでも腕に抱えた女性をケガさせないよう庇いながら――硬い地面をゴロゴロと転がる。


 回転する視界の中、俺が飛び出してきた方から、何かが飛び出してくる。ぎょっとしたが、それは迷彩服を着た都寺隊長であった。安堵したのも束の間、俺と同じように爆風の勢いのまま転がってきた隊長が、俺の背中にぶつかって止まった。


「いやー助かった」


「……隊長が怪我をしてなくて何よりです」


「そうじゃなくて。まあ、それもあるか。とにかく、あっちも助かったよ」


 隊長が指さす先は行き止まり。その行き止まりには、これまで見えなかった魔法の痕跡らしきものがある。旅の扉みたいなぐるぐる渦巻く魔力。あれこそが、地下鉄と地下鉄とをつなぐワープゾーンだろう。


 それは今まさに、光を失い、渦巻きを小さくさせようとしている。向こうでワープゾーンの源を、C4の一撃によって砕くことができたのか。あるいは、神に対して一矢報いたからなのだろうか。


 その渦巻きから、触手が伸びてくる。あれこそ、隊長が言っていた、神の触手というやつだろう。あれに刺されたら、神の子をはらまされてしまう。


 俺は、隣の女性をかばうべく押し倒す。だがしかし、隊長は一歩も動かずに、のほほんと暴れる触手を見つめていた。


 それ以上は出てこないと確信しているかのように。


 そして、隊長の予感は、まさしく的中していたようで、一通り暴れた触手は逃亡者を見つけることができないことを悟ったように大人しくなり、渦巻きの向こうへと消えていく。


 最後には、渦巻きすらも小さくなって、消えた。


 誰ともなく、ため息が出ていく。


「終わりでしょうか……」


「とりあえずのところは。ここはたぶん、東京の地下なんだろうけどさ。ほかのところはまだつながってるだろうから」


「ですよね。っていうかどうして東京だと?」


「大したことじゃないよ。元居た場所に戻れますようにって祈っただけだから」


 はにかむように、隊長が言う。


 はぐらかされたのだろうか……実際のところはどうにもわからない。だが、その時は追求しなかった。もう、そんな元気もないほどに疲れ切っていたのだ。


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