死を身近に感じて

まほろば

第1話 ある日突然

 離婚を機に年を取ってから転職したのは良いが、若い人に囲まれての仕事は本当にきつい。体力もないし、知識も追いついて行かない。LINEやメッセンジャーを使えと言われても、今まで殆ど使ったことも無いのに使えるわけがない。


 それでも必死に食らいついて行って、一年後にはその会社の営業部門ではTOPになっていた。こう言っては何だが営業というのは経験がものを言う。


 PCやスマホの知識はなくても、それ以外の知識なら若い人には負けない。


 それでもやはり、結局はその若い奴らに追いつかれる。それはそうだ彼らも必死に勉強して、自分なりの営業スタイルを作り上げてくるのだから。


 そんな状態が続いて結局は、自分の営業成績も落ちてきた。そんなおり、悪いことというのは重なるものだ。仕事で大失敗をしてしまい、会社で居場所がなくなるほどの醜態をさらしてしまった。


「ヤッパリじじいには無理なんだよ」


「俺達と張りあおうなんて、ばっかじゃねえの!」


 そんな言葉が聞こえるか聞こえないような声で、ささやかれる日々が続いた。その結果、精神的に参ってしまい、仕事に行くのが嫌になった。それでも何とか行かなくてはと玄関は出るのだが、全く会社の人でもない近所の人の声で、吐き気を模様して自宅に帰ることになる。


 会社には体調が悪いで数日間は休みが取れたが、それ以上は無理だ。こんな状態では仕事どころではない。しょうがないので近所に偶々あった精神科に予約を入れて行ってみた。


「こちらに今の症状を出来るだけ細かく書いて下さい」


 と看護師に言われる


 その時の俺の気持ちは精神科で合ってカウンセラーじゃないんだよな。病気として診断される。結局、暫く待って診察室に通されても、聞かれるのは何故そうなったか? 今はどんな症状か? こちらの気持ちを聞こうともしない。以前カウンセラーに掛かったことがあったから特にそう思うのかもしれないが、精神科? いや、今は心療内科というのか。


 それでもやることは全く違う。気持ちを整理させようとするカウンセラーと病気として見る心療内科の医師。最終的に診断された病名は躁鬱そううつだった。


 俺自身でもそれぐらいはもう認識していた。今はそれ以上なんだと医師にいくら伝えても聞いてくれない。ただ漢方を含む薬が処方されただけだった。


 前回カウンセラーに掛かった時は薬なんて飲まなかった。ただ俺の話を聞いてくれる。それだけだったのに、自然にその時は症状が出なくなっていた。


 離婚した時に精神的に相当参った時があって、その時にカウンセラーを進められたのです。離婚は結婚の倍疲れるというのは本当で、離婚届に判を押すまでに相当揉めたし、押してから、一人暮らしを始めても色々あった。


 子供もいるから、その子らの養育費、将来に掛かる金。それも稼がなければいけないのだ。彼女の方は早々に新しい人を見つけて期間が過ぎたら再婚することが決まっていた。(女性の場合再婚迄の期間が決められている)


 それでも何とか離婚も成立し、子供の親権問題も解決して、俺も漸く新しい一歩が踏み出せると心機一転転職した結果がこれだ。


 それからというもの会社に行こうとすると吐き気と冷や汗が出る。結局それで会社に行けなくなった。それでも一人暮らしだから、買い物には行かなくてはいけない。


 それも症状が酷くなってからは、人が多い時間に外出が出来なくなり、夜の0時まで営業してるスーパーに閉店間際に行って買い物をするのがやっとになった。


 そんな生活を続けていると、体調もおかしくなり、ある晩深夜に急に逆上のぼせたようになり、呼吸も荒くなって息苦しくなったので、仕方なく救急車を呼んだ。


 救急車が到着して、ストレッチャーに乗せられて救急車の車内で、血圧や心電図、熱などを計りながら、救急隊員の質問に答えていく。しかし呼吸が苦しく、吐き気までしてきたので、返答が出来なくなって来た。そんな時隊員が、


「血圧200ですね。呼吸も苦しそうだ。イマイケルの何処かな?」


「掛かりつけはないようだから、兎に角緊急対応で今行けるのはあそこだけだろう。連絡入れてみる」


 隊員が俺の症状をこれから向かおうとしている病院と連絡を取って対応可能か指示を仰いでいる。これが駄目だったら、俗にいうたらい回しになるんだなと意識が朦朧としている中でもハッキリ認識していた。


 幸いにも今回はその病院で受け入れてくれるということになり、直ぐに向かった。


 年齢は中年ではあるがまだまだ若いと自分では思っていたのに、ある日当然一つの事が切っ掛けで、大きな病気を患うことになった。


 病名 心臓肥大、高血圧、躁鬱……。

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