お笑い/コメディ

『そんな…あんまりだよ、こんなのってないよ』


 立ち眩みからの意識喪失後、その話は唐突に始まった。


 世の中には色々な都合がある。


 事を起こしてから火消しをしているのは最たる愚だ。人は傲慢による侮りを種とし、しばしば面倒事を患う。


 かく言う私もそうなのだ。


 もし今日が人生最後の日だったら、私はきっと後悔を口にするだろう。


 記録だけを読めば、前世以前は実際そうではなかった様だ。だが、それを知る事が出来たのは現在の私だけで、結局未来永劫のそれを証明する事は不可能だし、そんな事は永遠に出来ない。


 死の間際、確かに私も巷で言うように、しっかり自分の人生を振り返っていた様だ。それを口に出す事がなかったのは、単に誰かに伝えたいという衝動がわかなかっただけで、誰かにそのタイミングで尋ねられればもしかすると、やはり後悔を口にしたのかもしれない。


 最初に天寿を全うクリアした時の後悔は、確か、自分自身に忠実に生きれば良かった、というような内容だったと思う。

 私は私自身を信じる事が出来ずに終わったのだ。


 次に天寿を全うクリアした時は、あんなに一生懸命働かなくても良かった、だったか。


 あの時は失敗を取り返そうと躍起になって四六時中働いた。だが振り返ってみれば、自由も時間もない誰かの都合で生き続ける奴隷の様な日々だった。

 もっと自分の気持ちを表す勇気を持てば良かった。


 次の人生ステージでは、恋も遊びも振り切った生き方をした。それが大事だろうと思ったからだ。


 だが、大事にして、大事に大事にしすぎたから、私の本当の想いは、誰にも何も伝わっていなかった。時には乱暴に思えても、強く行かなければいけない場面もあるのだろうと、終わり際に反省した。


 何度やり直しても、やはりうまくは行かないのだ。反省を活かそうとした私は、次の人生ステージでは慣れない事をした為に人間関係のバランスを失い、よくわからない変人人間像を抱かせたまま、それを訂正する事無く天寿を全うクリアしてしまった。


 友人関係をもっとうまく築いて大事にしていれば、この課題はクリアできたのかもしれない。天寿を全うクリアする寸前、私はぼんやりとそんな事を考えていた。


 何度やっても、やはりうまくは行かなかった。


 他人に望まれるように、ではなく、自分らしく生きれば良かったという後悔。うまくやるために繰り返す人生。


 しかしやればやるほど後悔は募っていく――どうしても、人生の終わりに、達成できなかった夢がたくさん溢れる。


 仕事に時間を費やしすぎず、もっと大事な人と過ごせば良かったと感じるし、もっと自分の気持ちを表す勇気を持てば良かったとも感じる。


 世間でうまくやっていく為に感情を殺しても、可もなく不可もない存在で終わってしまう。


 人生の終盤では友人の本当のありがたさに気がつくし、連絡が途絶えてしまったかつての友達に想いを馳せるようになる。


 もっと友達との関係を大切にしておくべきだったという後悔を振り切る事は難しい。



 俺はどうしたいのだ――



 幸福は自分で選ぶものだと人は言う。だがどうすれば選べるのだ。


 選択肢も出ない。攻略本もWIKIもない。やり直しても何が分岐で何がどのフラグだったのかわからない。


 変化を無意識に恐れ、選択を避けた人生だったというのはもう十分わかった。だから教えてくれ。どうすればそれをトゥルーエンドにできるのだ。


 観察して考察して対策して解決しても、新たな問題イベントが津波のように押し寄せる。何度やっても悔いを抱えたままクリアしてしまうじゃないか。


 ――俺は、いったい……



 彼が私と同じような心境だったかどうかは今となってはわからないし、果たして並べられるものなのかも甚だ疑問ではあるが、ともすると彼の告白は、やはり進むべくして進まされた社会側に用意されていた三叉路の一つだったのかもしれない。


「この世はお笑い。すべてはコメディ。精一杯最善を尽くしなよ。或いは怠惰に眠り続けなよ。オチは同じさ」


 そして、意識は回復し始める。――今のはなんだ。人生劇場阿修羅編の予告か何かなのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

イベント総集編 にーりあ @UnfoldVillageEnterprise

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ