懐中時計 - 2

「うわぁぁぁぁぁ!!」

「あっははははは!!」


 終わりのない暗闇を二人はただ落ちてゆく。

 狐耳の男は叫びながら。女は愉快愉快と笑いながら。


 落ち続けている二人の前に壁のようなものが迫ってくる。


「なあ! これって! ……大丈夫なのか?!」

「さあね! そんなものわっちにわかるものか!」

「あ、え? う、うわぁぁぁぁぁ!!」


 二人は壁のようなものにぶつかった。



 真っ白な世界。凍えるような寒さ。そこには雪原が広がっていた。

 女は男の隣にいた。

 そして何やら頷いており、溢れでる笑みを隠すことができていない。


「雪、何か知っているな?」

「……ふ、いや、何も知らないが? っ、ふ、あはは!」


 不気味なほどに笑っている女。

 二つの人影が近づいてきている。

 それは、今よりも少しだけ若い女。そして姿が全く変わらない狐耳の男。

 女は今から起こることを知っているようだ。


「ま、まさか……」

「ああ、そのまさかだ」


『なあ、雪。俺はお前のことを愛している。だから、……俺と夫婦のちぎりを結んではくれないか?』


 ぴったりと寄り添ったの男と女。

 どこからどう見ても、愛し合っている二人。


『……! もちろんよ、紺! 私も愛しているわ。結びましょう。契りを。——魂の契りを』


 そう言った女の表情は、獲物を捉えた狼のようだった。


***


「——っ!」

「紺? どうかしたの?」

「……? ……いや、何でもない。とてもながい夢をみていただけだよ。雪」

「そう。それならよかった」


 その部屋には懐中時計が置いてあった。

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紺色の雪 色葉みと @mitohano

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