下
言うが否や、二香は駆け出した。
駆け出した二香を見た一太も慌てて後を追いかける。
二香は匂いをたどって、子ニンゲンの巣を探し当て、子ニンゲンそっくりに化けた。
一太も二香にならって、子ニンゲンそっくりに化け、首をかしげる。
どうして子ニンゲンに化けるの?
それは、子ニンゲンの親ニンゲンを化かして焼き芋の代わりをもらうためだよ。
僕らでうまく化かすことはできるかな?
当然だよ。なにせ私たちの親はあの化けタヌキだもん。
そっか。
そうだよ。
子ニンゲンに化けた一太と二香はさっそく巣の扉を開けた。
扉には鍵がかかっていたけれど、一太と二香が開けと言うと、かちりという音と共に簡単に開錠された。
子ニンゲンの巣の中からは煙草と食べ物の腐った匂いと何とも言えない悪臭とがでたらめに交じり合った匂いが漂ってくる。
親ニンゲンがいるはずなのだが、巣の中から物音はしなかった。
二香が顔をしかめている横で、れいぞーこだなと言って一太が巣の中へずかずかと入って行く。二香もあわてて巣に足を踏み入れ、散乱したゴミや脱ぎ散らかされた服をふんずけて一太の後を追う。
お目当てのれいぞーこを見つけた一太は、さっそく焼き芋の代わりに冷蔵庫にあった食料を食い漁った。二香は常温で仕舞ってあったカップラーメンや菓子、調味料などを片っ端から食い散らかしていく。
よほど空腹だったのか、二匹は夢中になって食事をしていて、親ニンゲンが近づいて来るのにも気が付かなかった。
親ニンゲンは台所からする物音に、怒声をあげた。
驚いて顔を上げた二匹に、怒っていた親ニンゲンも驚いた表情になる。
外に出したはずの我が子がなぜか二人に増えて食べ物を漁っているのだから、驚かないわけもないだろう。
化けタヌキの子タヌキ二匹は人間の虚を突いたこの瞬間を逃さず、素早く子ニンゲンの顔でニタアと醜悪な笑顔を作り、かん高い笑い声を上げる。ぎょっとして後ずさる親ニンゲンの様子に、しめしめと思った子タヌキたちは、笑いながらぐんぐんと体を引き延ばして大きな怪物に化け、大声を出して威嚇した。
親ニンゲンは悲鳴を上げて巣穴から裸足で飛び出していく。
一太と二香は自分たちの化けタヌキとしての成果に大いに満足して、お腹も膨れたことだしとタヌキのもとへ帰った。
焼き芋一本がお腹いっぱいの食事に化けて、子タヌキたちはしばらくの間センコウトウシという言葉をことあるごとに口に出し、タヌキを困らせた。
知らぬ間にセンコウトウシされ、知らぬ間に返礼を終えた子ニンゲンは、親元から離れて大きくなった今でもあの時食べた三本の焼き芋の味が忘れられず、秋になると必ず焼き芋を食べるようになった。
センコウトウシ 洞貝 渉 @horagai
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