センコウトウシ

洞貝 渉

 タヌキには子タヌキが二匹いた。

 子タヌキの一太は素直で元気な男の子。

 子タヌキの二香はおしゃまで落ち着いた女の子。

 そしてそのどちらも、非常に食欲が旺盛で、タヌキとして生きていくだけではとてもじゃないが食料が足りなかった。


 そこでタヌキは時折人に化けて働き、人が食料を集めている場所で人のルールにのっとって芋などを調達することにした。

 タヌキと人間の二足のわらじは、慣れれば簡単なことだ。

 山のみで食料を集めるよりもよっぽど安定しているし効率もいいので、タヌキは人としての時間もそれなりに気に入っている。

 

 しかし、最近は人間どもにもフキョウノナミとやらが襲い掛かっており、調達できる食料が減ってきていた。

 昔は銀色の穴の開いていないコイン一つで手に入っていたさつま芋が、今ではコイン二つが必要で、タヌキは苦しい思いをしながらなんとかやりくりをしている状況だった。

 

 ある日、タヌキがコイン六つで手に入れた三本のさつま芋を落ち葉で焼いていると、一匹の子ニンゲンがやって来た。

 子ニンゲンは焚火を不思議そうに眺めていたが、ふいに、ぐぎゅるると腹を鳴らす。

 お腹空いてるの? と人に化けていたタヌキが尋ねると、子ニンゲンはこくりとうなずいた。よくよく見てみると、子ニンゲンの格好は季節にあっていない薄手のもので、そこから突き出た手足はひょろりと痩せぎすで、子どもに似合わず目の下のはくっきりとクマがある。

 タヌキはちょっと悩んだが、自分の分の焼き芋を一本、その子ニンゲンにやった。

 子ニンゲンは差し出された芋を驚いたように見て遠慮しようとしていたけれど、空腹に耐えかね、あっという間に一本食べつくしてしまった。

 その様子を見ていた子タヌキの一太が、自分の分も子ニンゲンにあげてほしいとタヌキに頼む。

 一太の行動に触発されたように、子タヌキの二香も、私の分もあげてもいいよとタヌキに言った。

 タヌキはさすがにそれはと思ったが、まだ空腹そうな子ニンゲンを見て、二匹の分の焼き芋もあげてしまうことにした。

 子ニンゲンは本当に嬉しそうに焼き芋をほおばり、二本の芋もあっという間に食べつくす。そしてお腹が膨れたのか幸せそうに居眠りをし始めた。


 よかったのかい、お前たちも空腹だろう? とタヌキは眠りこむ子ニンゲンを眺めながら子タヌキたちに問いかける。

 一太が、このくらい平気だよと言って胸を張った。

 二香が、センコウトウシって言葉を最近覚えたのとニヤリと笑った。

 センコウトウシって何? 一太が二香に問いかけ、二香が得意そうに答える。先に私がこいつに焼き芋をくれてやった、だから次は私がこいつからもらうことができるってこと。

 タヌキは関心半分呆れ半分に二香の話を聞いていた。もらうって言っても、この子はまだほんの子どもだよ。なんにも持ってはいないんじゃないのかい?

 タヌキの言葉に、二香は少し考えてから、確かにそうかもしれないと言う。

 今は持ってなくても、いずれ大人になったらなにか持つようになるかもしれない。でも、私はそんなには待てそうもない。お腹も空いてるし、時間が経ったら忘れちゃうし、だから今から焼き芋の代わりの物をもらいに行こうと思う。


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