死した吸血鬼の物語

文壱文(ふーみん)

死した吸血姫の物語

「私の血を飲み干してくれないか?」


 吸血姫は言った。銀に靡く後ろ髪の真ん中で、深紅の瞳がじっと僕を見つめる。


「……は?」

「だから、私の血をすべて、飲み干してはくれないか?」

「貴女は吸血鬼ですよね!? 急に何を言ってるんですか!」


 夜が深まり目が覚めたのかと思いきや、この吸血姫サマはまだ寝ぼけているらしい。僕は目の前の吸血姫に一歩近づいて、頬をぺちぺちと叩く。


「最近、どうにも血が美味しくない。だから血をすべて抜いて、新鮮な生き血を補給してしまえばいいと思うんだ」

「は、はぁ……」


 言ってる意味が分からなかった。

 血をすべて捨てて、新しい血を得るなんてことはきっと実現できないに決まっている。


「色々な人間の血を啜ってきたけれど、やはり君の血が一番美味しいんだ」

「僕の血が?」


 吸血姫の眼はどこか座っている気がした。しかも視線の先は僕の目ではなく、その少し下。


 ──僕の心臓。


「恐らく、君のことが好きなのだろうな。他の人間の血が不味いというのも、この気持ちが原因かもしれない」

「っ!?」


 ゾクリと悪寒が駆け抜ける。


 ──だから、貴方の命を私にくれないか?


 雪が降っていた。それはとても静かな夜だった。

 月明かりを背景に吸血姫はじっと僕を見つめる。深紅の瞳は薄暗く、柔い輪郭を月が照らす。


 するとどうやら、悪魔の羽根を広げている吸血姫の姿。

 僕はあんぐりと口を開けた。


「それじゃあ、イタダキマス」


 人知れず雪の降るクリスマス。

 その日、僕は人生を失った。


 そしておはよう、吸血の僕。

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死した吸血鬼の物語 文壱文(ふーみん) @fu-min12

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