それでも今日も特別な一日

青樹空良

それでも今日も特別な一日

 散々な日だった。

 こんなところでミスるか? というところで失敗してしまい上司にこってり絞られた。

 そのせいで、昼飯も食べられなかった。

 そんな姿を後輩まで馬鹿にしているような顔で見ていた。

 僕はそいつの仕事の尻ぬぐいを時々しているというのに。こういう時には忘れてしまうなんて、薄情じゃないか?

 しかも、そのミスのせいで仕事が長引いて残業になってしまった。

 元はといえば自分が悪いのだが、どっと疲れた。

 極めつけに、帰り道で犬のフンを踏んだ。


「はぁ」


 僕はため息を吐く。

 けれど。

 俯いていた顔を上げる。

 鍵を取り出して、玄関のドアを開ける。

 その瞬間。


「おかえり!」


 ダイニングのドアが開いて、ひょっこりと妻が顔を出す。


「ただいま、今日もいい匂いだね」

「でしょでしょ!」


 台所からは何かの煮物の匂いが漂ってくる。


「今日も無事に帰ってきてくれてよかった!」


 妻がにっこりと笑う。


「ああ」


 思わずこっちまで微笑んでしまう。

 今日も家に帰ってきてよかった。

 ここに帰ってくるまでは、ひどい一日だと思っていた。

 だけど、外でどんなに嫌なことがあったとしても。

 彼女の笑顔があるだけで、僕のことを待っていてくれる人がいてくれるだけで、いつだって特別な一日になる。

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それでも今日も特別な一日 青樹空良 @aoki-akira

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