エピローグ
最果ての町――いつからそう呼ばれているか定かではないが、誰もがそう呼ぶ町がある。
その日もいつも通り、荒くれどもが騒ぎ暴れ喧騒を形作っている。
そんな騒々しい町でひと際賑わいを見せるのが、
石を積み上げただけの無骨な造りをした建物が軒を連ね、そのあちこちで客である探索者たちと怒号を交えた商談が繰り広げられている。
「おう案内屋! その情報は確かなんだろうな⁉」
「あん? 信用出来ねぇってなら他所行きゃいいさ」
「いや、そういう訳じゃねぇが……くそ! 足元見やがって」
商談が成立したのか、折れた客が案内屋の店主に金を突き出す。
「はっ。いい旅を」
こうして探索者たちは案内屋から知見を仕入れ『星の井戸』を目指し旅立っていく。
ありふれた光景だ。
「おう、俺らこそが『星の井戸』を一番に拝んでやるぜ!」
勇ましく立ち去る探索者隊を見送る案内屋の男だったが、何かを思い出したかのように引き留める。
「何だよ、まだ足りねぇって言うのか? 業突く張りは寿命を縮めるぜぇ?」
先程まで上機嫌だった探索者のリーダーと思しき男が強面を更に歪め睨みを利かせる。
が、案内屋の男は動じない。片腕を失くした屈強な体とあちこちに刻まれた派手な傷跡は虚仮威しではない。鋭い眼光は威圧を放ち、とても探索者を引退した身とは思えぬものだ。
思わずたじろぐ探索者だが、その様子を見て案内屋は慌てるように精悍な顔に笑みを浮かべる。
「そうじゃねぇよ。ちょいと……頼みてぇことがあってな」
「んだと?」
怪訝な顔をする探索者に、もう何べんも繰り返した「望み」を託すのだった。
「で、あの案内屋の話は何だったんすか? リーダー」
「ああ、あれか……」
町を発つ探索者隊の馬車の中で隊員の一人が口を開く。
「何でもよ、『星の井戸』で……いや道中でも構わねぇっつったか。十四、五くらいの男のガキを見かけたら世話してやって欲しいとよ」
「はぁ……ガキっすか?」
「絶対に役に立つからって、笑わせるぜ。昔見捨てたんだか知らねぇが、生きてるわけねぇだろ」
「結構腕利きな探索者だったって話っすけど、日和っちまったんすかね」
「ああ、試練の谷を越えてなお生還したってのによ。アガドスの野郎も焼きが回ったモンだぜ」
ある者は憐れむように、またある者は無様な敗者だと嘲るように。探索者たちは思い思いの言を吐く。
「俺たちゃああはならねぇ。てめぇら、気合入れてけよ!」
探索者隊がまた一つ、最果ての荒野へと消えていった。
◇ ◇ ◇
白む靄の中。澄んだ音が鳴り響き、辺りの空気を震わせる。
音の元を辿ってみれば草木の生い茂る大地とその中心にぽかりと空いた大穴へと行きつく。
大穴の底には清涼な水が豊かに蓄えられ、上部から注ぐ光を受けきらきらと瞬いている。
その中心で一人。揺れる影があった。
水面へ浮くように設置された円形の足場には簡素な揺り椅子が置かれ、一人の少女がゆるりと体を遊ばせている。
――――――、――――――……
少女の口からはたどたどしく旋律が紡がれ、鳴り響く音と混ざり、流れて行く。
ふと、歌が止まる。
少女は自身の腹の膨らみを慈しむように撫で、そしてまた歌う。
いつか見合うその日を夢見て。
【完結】星守りの歌 ~最果てを往く少年は、少女と出会い何を見る~ さくこ@はねくじら @sakco
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