Karte.31 GRAND SCHEME

 明くる朝、景と母親の茉莉はそれぞれ別々の用事があるため、部屋を出てマンションのエントランスまで一緒に向かった。


「じゃ、ここで! お母さん気を付けて」

「ありがとう。景も車には気を付けるのよ」 

「もう! 子供じゃないんだから」

「何言ってるの。あなたは天使なんだから」

「なんか、その言葉久しぶりに聞いた」


 そんなやりとりをして、景は母親の服装を上から下まで確認する。

「ねぇ、なんかいつもより、おしゃれしてない?」

「そう? ダメかしら?」

 茉莉はくるりと回ってみせるが、いつもは美人な外見とは裏腹に、Tシャツとデニムで出かけてしまうようなタイプだが、今日は黒色のタイトなスカートに、白色のリボンデザインの付いたブラウスを着ていた。


「ダメじゃないよ。いつもそれでいいのに……」

「えっ?」

「何でもない! じゃあね」

 景は照れ臭そうにして、茉莉の目を見ることなく手を振ってその場を離れた。


 同じく別のマンションのエントランス前では、零花と実花が女の勘を頼りに、我生に何かあるのでは無いかと探りを入れていた。

 そう、そこは我生の住んでいるマンションだ。

 零花を送り届けるついでという名目で、我生の動向を探ろうとしていた。マンションの前に車を停めて、少々乗り気ではない零花を横に乗せ、待ち伏せしている。


「ねぇ、やっぱり悪趣味じゃない?」

「いや、何かいつもと違うのよ……私にはわかる」

 

 長年の付き合いからか、兄妹として何かあやしいという殺伐とした直感が働いているということだろうか。


「うぅん……でも……」

「あ! 出てきた! 歩いて向かうみたいね。距離を置いて追いかけましょ」


 すぐさま車から降りて、距離を置きながら尾行する。我生は右手にアタッシュケースを持って堂々としていて、周りを全く気にするような素振りもなく、真っ直ぐ目的地へと向かった。


「あのマンションって……?」

「景の住んでいるマンションだよ!」


 するとエントランスから茉莉が出てきた。


「えっ!? 景のお母さん?」

「えっ!? 景くんのお母さん?」

 二人は声を揃えて驚いた。会話までは聞こえなかったが、そのままオートロックを解錠してマンション内に入ってしまった。

 


「どういうこと? オートロック!! 乗り込めない! 電話で突撃!?」

「実花姉ちゃんこわい……でもあの二人なんで……」

「うーん! 白昼堂々、我生がやましいことするとも考えにくい……明日問い詰めるとして……ここで引き上げるか! 私も病院にパソコン置きに行って作業があるから、その前に家まで送るわ」

「ありがとう」

 実花は少し間を置きながら考えて決断をしたが、とりあえずは動向を探るのみで引き上げることにした。


 そうして車を走らせ、交差点で一時停止をした時だった。


「あれ? 前を歩いているの景くんじゃないかしら?」

「あっ、本当だ! け……」


 零花は景を呼び止めようとするが、途端になってそれをやめた。


「瑠璃羽ちゃんと合流したわね。声かけないの?」

 実花が零花の顔を覗き込むが、むむっとした顔をしている。

「あの二人……あやしい」

「あら? 気になる? 声かけないで付いて行ってみる? 悪趣味じゃない?」

「いつもと何か違う! あたしにはわかる」

 先ほどとはまるで、形勢逆転である。


「ああ、面白い」

「笑い事じゃない! なんであの二人が一緒にいるの?」

「やっぱり気になってるんじゃない」


 止まったその先は、瑠璃羽の自宅前だった。


「瑠璃羽ちゃんの家?」

「入っていくわね。呼び止めないでいいの?」


 零花は「うぅっ……」と頭を悩ませて、しばらく考えたが、首を「ダメダメ」と横に振った。


「冗談はさておき、見る限りあの二人はそんな関係では無いと思うわ。なんとなくだけど……」

「実花姉ちゃんを信じて、とりあえず帰る」


 しばらく考えて、それでも腑に落ちない感じはあったが納得して素直に帰ることにした。

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