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アモンー因果らせん構造ー 『Ⅰ』


 脚本・演出∶八舞士郎



◆登場人物


 ベニバナ

 店主

 アモン

 フウユ



    閉店前のBARにて……

    客はベニバナ独りだけ

    カウンターに顔を突っ伏し寝ている



店主   お客さん、そろそろお店閉めますよ?

ベニバナ あ、あ、はい

店主   だいぶ飲んだでしょう?お水いりますか?

ベニバナ すみ、ません、お願いしても?

店主   はい、どうぞ


     そっとグラスに注いだ水を差し出す

     空のグラスをクロスで磨きながら


ベニバナ 失ったんですよ、全て……もう僕には何もない。あるのはこの腐った身体だけ

店主   ならば、その身体とやらを大事にしてくだせぇ。儂の目にはあんたが腐ってるようには見えません、タクシー呼びましょうか?

ベニバナ いいえ、帰れます



     店主退場

     ベニバナが立ち上がり振り返る

     正面に向かって歩く

    (BARのドアベルの音)

     上手と下手を行ったり来たり

     大きく横揺れするベニバナ

    (雷鳴と豪雨の音)


ベニバナ 何を頼りに? 誰を頼りに?

     現在いまに間引かれしこの身体は、過去ですら記憶の針をゼロへと進ませ未来を刻む針の認識さえも歪ませる。双方を否定した今に見えるこの世界は何だ?



     うつ伏せに倒れる

     目の前に光る指輪を見つける

     手に取るベニバナ



アモン  頼れる者が欲しいか?


     聞こえてくる声に反応する

     起き上がって周囲を見渡す



ベニバナ だ、誰だ??



     アモン登場


アモン  教えてやろうか? 過去と未来のからくりと善と悪の全貌を……その先に生と死の意味とやらが見つかるかもしれんぞ。

ベニバナ だいぶ酔っ払っているな。俺は悪い夢でも見てるのか?

アモン  夢ではない、主が小生を引き寄せたのだから。まずは余興を見せてやろう。




     アモンが手を挙げて指を鳴らす

     豪雨と雷鳴が鳴り止む

     上手側から女性が登場



フウユ  ベニバナ私やっぱり、貴方がいないと生きていけない。私たちやり直さない?

ベニバナ フウユ? 今の俺には何も無い

フウユ  大丈夫。また何度でもゼロからでもやり直せばいい



     ベニバナに抱きつくフウユ

     アモンが手を挙げて指を鳴らす




     (暗転)




     家のベッドで目を覚ますベニバナ

     上体を起こしてキョロキョロ見渡す



ベニバナ 夢?? じゃないな(付けている指輪を見ながら)

アモン  余興は楽しんでもらえたかな?

ベニバナ お前がフウユとの仲を取り持ってくれたとでも?

アモン  そういうことだ

ベニバナ お前何者なんだ?

アモン  アモン。気紛れな悪魔さ

ベニバナ 悪魔? おいおい冗談だろ? 仮に本当だとして悪魔が人助けか?

アモン  助ける? 勘違いするな。主の人間性をちょっと覗いてみたくなっただけだ。

ベニバナ 昨日は酔っていたから、うろ覚えなんだが過去と未来がどうとかって?

アモン  過去と未来のからくりと善と悪の全貌を見せてやると言ったんだ。主が生きることに退屈していたように小生も死ぬほど退屈していたからな

ベニバナ なるほどな。もう少し生きてみたくなったよ……アモン、お前は過去も未来も操れるのか?

アモン  からくりはあるがそういうことだ。フウユが復縁を迫ってきたのは見事だったであろう?

ベニバナ ああ、驚いたよ。どんなことでも出来るのか?

アモン  からくりはあると言ったであろう。勿論限界は無いに等しいが、代償もある。

ベニバナ 代償とは?

アモン  それは叶えてみなければわからない。だが、大きいことをすればするほど代償は大きいぞ

ベニバナ では、手始めにもう一つ職を失った。取り戻せるか?

アモン  容易い御用だ




     アモンが手を挙げて指を鳴らす



アモン  時間を要する。明日には結果が出るだろう

ベニバナ 面接みたいだな。疲れているのか、飢えているのか、刺激求めた狂気的な自分がまるで深淵から覗いているようだ




――――――――――――


 私は真実の横で黙読していたが、途中で台本を閉じた。


「もう、いいのか?」


 真実は意外にも早い段階で止めたことにびっくりしたのだろう。


「やっぱりすごい世界観……是非公演で観たいわ」

「そうか」


 そして、先にも述べた通りこの公演は初日を迎えない。それだけではなく、真実の身に起きた実体験と酷似するということを後になって知ることになる。

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