Karte.22 Storyteller
イラストで表現した映像……。
風船を持ったポップな可愛らしさも感じるが、三日月目が悲しくも不気味にも見えるのだろう。
「ごきげんよう……我がジョーカーである」
「何だ!? ハッキングか?」
我生が驚くのも無理はないだろう。
映した映像は完全に一方通行によるものなのだから、応答しない限りは反応するはずがない。
「ジョーカー!! あなた一体どういうつもり? 私たちを弄んでいるの?」
「今は説明出来ることは限られてしまうが……君たちは我に動かされていることは確かだ」
「どういうこと? ちゃんと説明して! あなたは何者なの?」
何者かと聞かれたら答えるのが道理だろう。
だが話せない理由がある以上、多くは語ることは出来ないのだ。
「我の存在を今は教えることは出来ない……ただ何者かと言われたら……君たちのことを間接的にずっと見ている言わば観測者だよ……Storytellerとでも言っておこう」
「目的は何だ?」
「ある程度は繋がってきたようだな……エデンとアビス……そして我生と実花のよく知る人物……真実の契約者ヘヴン……君たちは到達地点に導くように動かされている……我生……頭の良い君ならわかるだろう? 我がいる以上……シナリオは動かせない」
「仮にお前が何らかの形で俺たちを観測しているんだとしたら、全部計算で動かされているということか」
我生はやはり頭が良い。
しかし、粗があれば人間は容易く崩れる。
それが生命の欠陥ではないだろうか。
「景……そして瑠璃羽……君たちも頭が良い……抗うことが利口か……従うことが利口か……わかっているはずだ」
そう言ってここにいる全員を唆していく。
全ては目的到達地点へと導くために……。
「試されているんだね! 気付きを逃さずおれたちは動く」
「わたしたちはあなたに転がされているのね。エデンやアビスもあなたが仕組んだシナリオなの?」
景と瑠璃羽の問いかけに答えられる範囲で反応を示す。
「そういうことだ……無作為ではなく意味があって君たちを選んだ……もう一体いたんだがな……壊れてしまったよ」
「エデンとアビスにヘヴンともう一体いたってことかしら?」
「実花……君も要領がいいんだ……壊さず掻き回さず……上手く我生と導いてくれ……もう一体ハデスという存在がいたのだがな……明快が破壊してしまったのだ」
「ハデス!! お前がハデスの何かを知っているのか!?」
明快は声を荒立てて壁を殴って威嚇した。
「明快くんも関わっている?」
繋げるように思考を張り巡らせる我生、鋭い目つきで睨みつけ、言おうとした言葉を一瞬でジャッジして飲み込んでいるようにも見える。
「さあ……もっと刺激的に動いて導いてくれ……我の創造する世界へと……」
「話す気は無いってことか」
「それを伝えたかっただけだ……どうせ君たちは我のシナリオ通りに動くのだから」
遂行するシナリオは変えられない……動かされている以上、何も変えることなど出来ないのだ。
「今話せるのはそれだけだ……話すことで破綻する計画でもある……君たちを信じているよ……では」
そう言ってパソコンを切断してしまった。
「ちょっと待って!」
実花の呼び止めは届かなかった。
「要点だけを伝えてきたな……ジョーカーは敵か味方か」
「敵よ! 絶対何か企んでいるわ!」
「そう断言するのはまだ早いかもしれない」
「わたしもそんな気がする」
「おれも当事者として断言は出来ない」
瑠璃羽と景は我生の意見に賛同しているようだ。
軽はずみに敵だと判断しない思考は大切である。
実花は真実の過去のことで判断能力が麻痺しているに違いない。
「ハデス……」
(オレが壊したことで変な方向に進んだのか?)
明快もそっとつぶやく。
瑠璃羽がハッとした顔をして明快のほうを勢いよく振り向いた。
それが始めて聞いた明快の心の声だった。
「ハデスって、明快くん何か知っているの? 今は言いづらいだろうけど、気持ちが落ち着いたら情報共有したほうが良いかもしれない」
瑠璃羽が明快の歯を食いしばった顔と、心の声に上手く答えるように反応を示した。
「くっ……」
「辛いのか? 話せるときに話してもらうとして……実花、みんなに話しても良いんじゃないか? 真実との過去の出来事を……俺たちだけの問題じゃなくなってきた」
「そうね……そうよね。過去のことは私の口から話すわ」
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