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クラスで何やら騒いでいる声がする。
「ねぇ! 講演会に来る講師ってなんか
「なんかすごいイケメンらしい!」
「外科医でビジュ整ってるとか最強じゃん!」
「うわぁ! どんな顔してるのか速く見たい!」
講演会の講師が来ることで話題は持ち切りだった。
「おいおい……人間って単純だな」
「本当だよな。女子もイケメンと医者ってわかった瞬間この態度……」
「まさに、あの時のデジャヴ!!」
瑠璃羽が転校してきた時の男子の反応に呆れていた女子も、条件が入れ替わればどうやら同じ反応を示すようだ。
「景も零花ちゃんも知ってる人なんだろ?」
明快が小声で二人に問いかける。
「そう! 面倒そうだしみんなには言わないで」
「うん! これは絶対黙っておこう」
そんなことが起きているとは露知らず、二人は車を走らせて高校へ向かおうとしていた。
「何で私が運転手なわけ? ねぇ、聞いてる?」
反応がまるで無い。
「着いたら起こしてくれ」
「私の話を全く聞いてないわね」
「景くんの様子見に行くんだろ? ちょうどいいじゃないか」
「だからってなんで私が運転手なのよ!」
「講演会の前は集中力を高めるために寝ておきたいんだ」
「答えになってるのかわからない……まあいいわ」
実花は素直に車を走らせて皇海高校へと向かった。
道のりはそう遠くない。山道を抜けるので歩けば一時間以上かかるが、車だと十数分で着いてしまう。
「着いたわ」
「ありがとう。助かったよ」
「そんな短時間で寝れたの?」
「ああ充分だ」
「すごい集中力を通り越してやっぱり変人だわ」
すると来客用の駐車場に停めた所で何やら長蛇の列が出来ていた。
「キャーッ! あの人よ!」
「かっこいい!!」
女子生徒の黄色い声が、駐車場近くの列から二階の渡り廊下の窓まで学校全体に響いていた。
「何よこれ……アイドルの出待ちみたいじゃない」
実花は異様すぎる熱狂的な女子生徒に驚いていると……。
「隣の女性もすごく美人!」
そう言われると実花もまんざらでもない顔をしている。
我生は声には目もくれず、ひたすら歩いている。
気取っているのか、全く興味が無いのか、どちらかと言えば後者だろう。
気にせず淡々と歩いていると、職員入口に校長先生が待っていた。
「いや、心よりお待ちしておりました。いや、どうぞどうぞ」
廊下を歩きながら校長はひたすら喋っている。
「いや、黒岩先生の代わりとして、急な対応なのにお越し頂きありがとうございます! いや、助かった」
「こちらこそありがとうございます」
「いや、黒岩先生が彼なら信頼できると仰っていたので、安心してお願いしましたよ」
「それはどうも」
「いや、それにしても今日は暑いですね。私には孫がいまして……おじいちゃん毎日ちゃんと水分取ってなんて言われてしまって、いや、朝からもうイチリットルは開けてしまいましたねイチリットルですよイチリットル」
「取りすぎもよくないですよ。こまめに飲むようにしないと、水中毒などで倒れてしまうこともありますから」
「そうなんですか! いや、さすが先生! いや、歳を取るとね、沢山取ったほうが良いとばかり思っていましたよ。いや、生徒さんたち人集り出来てましたね。いや、イケメンが来ると噂されてましてね。いや、しかし本当にイケメンだ」
校長先生の話が長いと生徒たちが言うのはこういうことだろうと考えながら対応していると、空いている教室へとたどり着いた。
「こちら簡易的にご用意したお部屋ですが、お時間までどうぞご自由になさってください」
「ありがとうございます」
実花と我生は案内された部屋で時間が来るまでゆっくりさせてもらうことにした。
実花はやり残している資料などをまとめるためパソコンを開いた。
「講演会まで少し時間あるわね。それにしても貴方がそこまでイケメンと噂されているとは……」
「発表する資料に少し目を通しておくか……ああ、本当に話を聞いてくれる生徒がどれほどいるのか心配になったよ」
「講演会の内容は黒岩博士から指示されたの?」
「いや、いちから自分で考えたさ。他人の言葉で話すのはどうも苦手でね」
「そんな急な対応でも、ちゃんと自分で原稿を書き下ろせる……それをわかって黒岩博士も貴方にお願いしたのね」
それぞれがパソコンを眺めて、情報を整理しているとあっという間に時間が来たようだ。
「失礼します。生徒たちを体育館に集めております。お時間ですのでお願いします」
「わかりました」
実花も一応、職員の観覧席から見るようにした。
ステージに上がった際は、少しざわついている生徒さえいたものの、意外と静かにみんな講演を聞いていた。
それほどに我生は人を惹きつける説明力や、相手を夢中にさせる能力に長けているのだろう。
「以上で講演を終わります。ご清聴ありがとうございました」
終わった頃には全員拍手喝采だった。
しかし終わった瞬間また追っかけのような人たちが現れた。
黄色い声を上げて、追いかけてきたり先回りしてくる女子生徒たちがいたのだった。
「困りましたね。道を開けてください! お願いします!」
校長先生が必死に生徒たちを誘導していると、体育館と教室を繋ぐ通路からお年を召した女性が手招きをしてきた。
「こっちです!」
生徒たちを欺くように階段を駆け下りて誘導された場所へと向かった。
「ここは……保健室ですか?」
「はい。申し遅れました私は保健指導しております高橋と言います」
「ありがとうございました。我生がここまで人気になるとは……」
「確かにイケメンですわ」
「いや、高橋先生まで!」
保健室の雰囲気はまさにホームのようで、二人も落ち着いていた。
初めから控え室はここでも良かったのでは……と思うくらいの落ち着きようだ。
「いや、ありがとうございました! いや、とても素晴らしかった! 私も感動しましたよ!」
「そう言って頂けると光栄です」
「いや、是非ともまた講演会をお願いしたいですな。いや、生徒だけでなく教師もみんな褒めておりました」
「ありがとうございます! 機会を頂ければいつでも」
生徒のみならず教師にも響く講演会だったようだ。
「いや、私はこれで失礼します! いや、今日は本当にありがとうございました」
そう言って校長先生は帰っていった。
「高橋先生もありがとうございました。誘導助かりました」
「いいえ、私は今から学食でお昼に行ってきますのでどうぞご自由になさってください」
「は、はい」
高橋先生もそのまま行ってしまった。
「意外と自由人が多いわね」
「まあ、少しゆっくりさせてもらおう」
「そうね」
すると実花のスマホが鳴った。
「もしもし? 零花どうしたの?」
「まだ学校にいる?」
「いるよ。どうかした?」
「なんか相談したいってお友達がいるんだけど、聞いてくれたりする?」
「まあ、時間あるからいいわよ。保健室にいるからおいで」
しばらくして零花が瑠璃羽を連れて保健室にやってきた。
「実花姉ちゃん! 連れてきたよ」
(瑠璃羽ちゃん、元気だけど……たまに悲しい表情をしているから心配なのよね)
「友達の越智瑠璃羽です」
「天近実花です。よろしくね。何か相談かな?」
実花はいつも通りの優しい笑顔で瑠璃羽に話しかけた。
「精神科医と聞いていたので相談がありまして……」
はじめましての関係にはどうも照れ屋が出てしまう瑠璃羽は少し恥ずかしそうに話した。
しかし、瑠璃羽はアビスと契約した心の声を聞きながら相手と器用に会話をするという術を身に付けていた。
「何か気になる症状が有るのかな?」
(表情がどこか暗い……厄介なものを抱えてそうね)
実花は寄り添うように優しく問いかける。
「過去にも統合失調症と診断されたことがあるのですが、快方に向かっているのか気になって……」
「別の精神科医の方にそう診断されたのかしら?」
「はい。オンライン診断で」
「確かでは無いわね」
実花は腕組みをして信用しきれないような難しい顔をした。
「たまたま見つけたオンラインの精神科医で……ジョーカーと名乗っていました」
「ジョーカー!?」
実花と我生はその名を聞いた途端に声を揃えて驚いた。
「瑠璃羽さん! それは確かなのね?」
(ここまで色々なことが繋がってくると流石に怖いわ……)
「は、はい」
「顔を明かさない精神科医ジョーカー」
我生も操作していたパソコンを閉じてこちらに耳を傾け、会話に加担した。
「まさか……どこに繋がるのかと思ったら」
(とんでもないことが起きそうだな……景くんたちが不運に見舞われる前に阻止しなければ)
「どうしたの? ジョーカーってそんなにやばい精神科医なの?」
(あたし、余計なことしちゃったかな?)
状況を理解出来ていない零花も反応を示し、瑠璃羽は無言で平然としている。
「その精神科医に統合失調症と診断されたのね?」
「はい。投薬もいらないと言われ、経過観察をしていましたが、別の症状が現れて……」
「謎の多い精神科医だが、かなり的確な診断をすることで有名だ。別の症状というのはどんな症状か聞かせてもらえるかな?」
瑠璃羽は首を右上に傾けてアビスの存在を確認しながら話し始めた。
「統合失調の症状は初期の時より、かなり改善に向かっていきました。ですが、アビスというわたしのことをずっと観測する存在が現れたんです」
「幻覚なのかしら? 今もそこにいるの?」
(まずい、非常にまずい気がする)
「はい。常にそばにいてわたしに話しかけてきます」
瑠璃羽は契約のことは黙っていた。
かなりの頭脳派ではあるため、心の声を先に聞いてしまったことで意図して黙っているに違いない。
「エデンにアビス」
(恐らく想定している以上に何かやばいことが起きる!)
そっと囁く実花に瑠璃羽は心配そうな顔をしながら、心では何かを考えている。
「大丈夫だって言ってんだろ!」
「いいから一応見てもらおうよ!」
廊下から景と明快の声が聞こえる。
「高橋先生! あれ……?」
「高橋先生ならお昼休憩中だが、何かあるなら俺が見ようか?」
明快は我生に無理矢理に診てもらい、処置をしてもらった。
「大丈夫。軽い捻挫だ」
「だから言っただろ」
どうやら話を聞くと、喧嘩をしたときによろけて壁に手を付いて手首を捻ったらしい。
いまだに喧嘩っ早い性格は治ってはいないが、今回も正義感があっての喧嘩なのかもしれない。
「なんか景くんから話には聞いていたお友達がみんな揃ったわね」
「確かにな」
そう感心しているところへ、実花のパソコンを自動的に起動させて不気味な映像を映し出した。
「何よ……これ……??」
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