Karte.17 BALANCE
「ただいま……今日も誰もいない」
瑠璃羽の日常である。
「家族なんて、大嫌い……わたしはいつも独り」
「独りじゃないわ……アビスがいるじゃないの……瑠璃羽ったら冷たいわね。」
ずっと付き纏い続けているアビスが悪戯に孤独を埋めるように話しかけてきた。
「自分の家なのに毎日、お家に帰りたいと思ってしまうの。それより見てた? 景くんの喧嘩…あれが前に言っていた契約の力なの?」
「そうよ……彼は
「悪魔蒐めの目的は何?」
「さあね……知らないとも言い切れないけれど……知らないわ」
アビスは何とも言えないような答えを濁したどっち付かずな矛盾した返答をした。
「秘密ばかりね……知っているかのようにも聞こえる」
張り巡らせる頭の暴走は止まらず、思考の枠は乱暴に散っては募り、順序を踏まずに連なっていく。
普段の何気ない日常的に聞こえてくる街の音、人の声、お店で流れる音楽、日常として受け入れていた全てがまるで、自分の思考とリンクし続けているような感覚になっていくのだった。
他人からすれば、何気ないBGMほどの小さな情報すら的確に拾い上げ、拾ったモノを連想ゲームのように掛け繋いでいってしまう。
そして繋がった情報は歪曲し、ネットで見つけるニュースでさえも自分のことを話されているかのようにストーリーを構築してしまう。
入ってきた情報はすべて幻覚として処理されてしまう。
生徒や道行く人たちの視線。
趣味が合っていたりするのも、心が読まれているとすら感じてしまう。
他人が事実と呼んでいる出来事に気分を選び取るのではなく、幻覚で気分を変え、そして気分によって見える幻覚に動かされ、妄想は幻覚を支配し、幻覚が現実に折り重なっていく。
急に瑠璃羽の心は揺れ動き、瞬く間に荒んでいった。
少しずつ汚れていく感情はグラーデーションのように変わっていくように見えて、傾くその時は容易く悲鳴をあげる。
「家族に愛されていないわたしにとって、今は零花ちゃんが心の支え。あの子を失ったらわたしは生きていけない。やっと出会えた友達」
「そう……このままだと貴方はまた同じことを繰り返し……彼女を失うかもしれないわ……貴方は所詮新月なのよ……自ら光を発することは出来ない……照らす光が必要なの……それは貴方が見つけるもの……」
瑠璃羽は家庭環境と精神疾患のせいで、何度も友達を失ってきたのだった。
平静を装ってはいたが、毎日傾く天秤は彼女を擦り減らしては、感情を分銅に変えて底上げを繰り返し、無理矢理に均衡を保っていた。
バランスとは、不釣り合いと不釣り合いを調和して補い合っているだけで、それをバランスが保たれていると呼んでいるだけなのかもしれない。
「もう嫌……嘘が本当だと思われているわたしの性格が、理性や居場所を作っているだけ、その度に感情はバランスを失っていくの」
「ほらほら……契約……してみる気になった?」
アビスは妖艶な眼差しを
「気になるのは……わたしの症状がアビスの言う統合失調症なら、アビスは幻覚や幻聴なの? 他人には見えていないんでしょう?」
「さあね……それはどうかしら?存在しているかもしれないし……していないのかもしれない……契約をしない限りどちらも重なり合った状態が存在しているのかも……」
「何それ、まるでシュレーディンガーの猫ね」
「エデンは薬を与えたようだけど……私はそんなに生易しくないわ」
「契約すると、どうなるの?」
「全ての人間の心の声が聞こえるようになるわ……煩わしくて耳障りかも……まあ統合失調症なら……すぐに慣れるわきっと……」
「統合失調症が幻聴なのに対して、他人の本当の声が聞こえてしまうのね」
「使い方次第よ……本当の声を聞くことで……勘違いだった幻聴の軸を……戻せるか……さらなる歪みを持ってしまうか……それは瑠璃羽次第よ…」
「いいように言うわね。わかった契約する。今のわたしにとっては
「はい……堕ちた……じゃ……早速契約ね……」
アビスの笑みは、企みの微笑でありながら悪魔にも天使にも見えるような色香を纏う恍惚の表情に変わった。
そしてアビスは両手で瑠璃羽の頬を包み、唇に接吻をした。
「はい…契約完了…」
瑠璃羽は堕ちた。
この瑠璃羽の選択は光となるか闇となるか…それは瑠璃羽本人が創り上げていくことになりそうだ。
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