第15話 蘇生

 覚醒解除後は三人の氷の欠片を拾い集めて街のハズレの寺院に向かった。




 応対してきた僧侶は名をノイマンというらしい。


悪性を感じさせる顔と屈強な肉体。


僧侶服を着ていてもなおはちきれんばかりに溢れる暴力的なオーラ。正直いってチンピラにしか見えん。


 もともと犯罪者だったのが改心して神官になった系か、そう思って質問してみた。


〝いや、普通に神官の家系に生まれてたから僧侶になっただけだが〟


 とのこと。マジで?その面ならスナック感覚で臓器売買くらいしてなきゃだめだろ。


〝そんな人間のクズのやることなんてできるかよ!良くそんなひどいこと思いつくな!あとこの顔はわざとこうなるように表情を変えるように訓練したんだよ!〟


 何故そんな必要が?


〝見た目の印象が良いやつが良いことをやるより見た目の印象が悪いやつが良いことをやったほうが褒められるからな、どうせ善行を積むならたっぷりたーっぷり褒められたいんだよ俺様は。〟


〝おっと、こんな話してる場合じゃねえ。今部下に蘇生の準備をさせている。エフィミアとかいうそっちのボインの姉ちゃんは控室で待っててくれ。〟


 ちょっと待て!言い直せ、宇宙で一番かわいいと。


〝そっちの宇宙一顔が良くてボインのかわいい姉ちゃんは控室で待っててくれ〟


 もっと神に祈るように!愛を囁くように!


〝そっちの宇宙一顔が良くて!!ボインで!!いい匂いのするかわいいかわいい美の化身の姉ちゃんは後ろで待っててくれ!!〟


 もっと…


 ◆◇◆◇


 ノイマンの喉が潰れるまでリテイクをさせてノイマンが涙目になったあたりで蘇生の準備ができた。


この世界に存在する蘇生魔術は迷宮で死んだ命に適応される。


一度蘇生に失敗すれば灰となり灰の状態で更に失敗するとこの世から完全に消え去る。蘇りも救済もない完全な死だ。


蘇生率は9割程度。文字上は高いが人の生死を扱うにはあまりにも低い確率。


ささやき、いのり、えいしょう、ねんじろ!


一人目の蘇生は成功した。蘇生したのはサイコ盗賊。


 あとの二人が蘇生の儀式をさせられている間にやたらそわそわしていたサイコ盗賊と色々話した。話したことは主に君主くんのこと


〝長い事一緒に居てていてわかったが兄さんは共感性の塊だ。口下手すぎる上に話もクッソつまらんが。それでも、孤児院では友人も多かったよ。人間は分かってくれる人が好きだ。特に心の奥底の誰にも話せていないようなところを。〟


 分かるよ。俺もに理解してもらえたお陰で親友になったから。


 〝良く俺は器用で兄さんは不器用とか言われていたんだけどさ。兄さんは俺と違って損得関係なく苦しんでいる人間のところに突っ込んでいって損してるだけなんだよ。あの馬鹿さがなければむしろ俺よか要領は良いよ。〟


 そういやアンタ毎回毎回兄さん兄さんうるさいけどその…そっち系なのか?


〝んにゃ、ロリコン。

 正直エフィミアちゃんは初老にしか見えないし龍人ちゃんは棺桶にしか見えないんだわ。〟


 ガチの性犯罪者の目じゃねえか。割と俺が本気で引いてると


〝まあ全部嘘なんだが。〟


 サイコ盗賊の目が性犯罪者の目からいたずらっ子の様な目に変わる。


 こいつこんな様子でからかってくるからマジ嫌い。控えめに言って死んで欲しい。




 お互い冗談で誤魔化しあっているが結局俺もサイコも絶対に君主くんに死んで欲しくないのだ。


 蘇生を祈る間にフラッシュバックしたのは地獄のような語りたくなかった前世の思い出。



 こんな俺にも昔は親友がいた。名前は■■。もうどんなやつだったかは思い出すのも辛いから省略させてくれ。


 大事なのは中学時代俺がいじめられて自殺しかけていた事。見るに絶えずにあいつが俺を庇い代わりにいじめられた事の2つだけだ。


 あいつが身代わりになったお陰で俺はそれなりに平和な学園生活を送れるようになった。


 しかし命の恩人に対して、どうしようもない俺の身代わりとなってくれた親友が代わりにいじめられるのを見て一瞬、ほんの一瞬だけ湧いた感情は


〝情ねッw〟


 という腐った、穢らわしい、どうしようもない、醜い醜い醜い醜い醜い醜い感情。


 本当にここまで醜い生物が存在してたのかと自分自身に驚いた。孤児院で引きこもった。もうあいつの顔を見れないと思ったから。こんな醜い俺の姿を見て欲しくなかったから。


 今思えば俺が顔面に異様に頓着するのもこの頃からだった。恐らく心のどうしようもない醜さをネトゲのアバターの美しさで中和しようとしたのだろう。


 ひたすらネカマに逃げて逃げて逃げて逃げて逃げ続けた。


 ある日暗転したpcに映っていたのは妖怪の顔。俺の顔。罪を犯し、恩人を見捨て、逃げ出した奴の醜い顔。


 謝ろう、全て話して、この醜さを見せつけて、軽蔑されて、縁を切られて。そして今度はあいつの代わりに俺がいじめられるのだ、あいつが俺にやってくれたように。


 次の日あいつはトラックに引かれてこの世を去った、謝ろうと駆け寄った俺の眼の前で。



 今度はもうそんな思いはしたくない。


 あいつや串刺しになってしまった家族みたいな善人は絶対に助ける。幸せになってもらう。幸せにする。


 だから君主くんだけでも助けてくれよ。善人皆殺しゲームは楽しかったか?あいつも俺の家族も皆殺しにして満足したろ。なあ、頼むよ神様。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ts司祭さんの迷宮日記 @tinko1129

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ