第4話

「父上、私の娘、つまりあなたの孫娘であるひいらぎを、仙台の家で養育していただきたいのですが」

「ふざけるな」

 そのまま、父は電話を切ってしまった。すぐ、リダイヤルする。

「どうやら、柊は弱視のようで」

「で?」

 不機嫌な声である。

「仙台の街はコンパクトですし、京都のように暑さ寒さも厳しくありません。京都の家は借家ですから、いずれ出て行くことにもなりかねません。往来は観光客も多いですし、柊には…」

「解ったよ。物心つく前に、この家と街に慣れさせたいのだろう。全く。お前の父親は、片脚だということを忘れたのかね。ジジイに幼児を預けようだなんて…」

 母が電話をかわる。

「セダカ君なら、いっぱしの保護者になれます」

 父の溜息が洩れ聞こえた。


 *


 柊は、大学の同級生との子供である。

 ある日、中村真雪なかむらまゆきは難しい顔をしていた。曰く、生理が重いので、婦人科にかかったら、「子供でも産めば良かろうに」と簡単に言われたのだと。

 確かに、婦人科の病の何割かは現代人の多すぎる生理に由来するのだと医学部の講義で習った。習いはしたが、パートナーのいなさそうな教え子に何たる暴言を吐くのか。

「同じことを言ったのよ。そうしたら、あなたに頼めば良いと言われたの。薬も要らないし、簡単でしょうと」

「ああ…」

 確かに、医師として考えてみれば、合理的な判断である。

「君が嫌でないのなら、僕はかまわないけれど」

「へ?」

 見る見るうちに、顔が真っ赤に染まっていく。中村真雪は、もにょもにょした。

「大丈夫。出産までは家で面倒見るし。休学中の学費や、生活費、諸々も…」

 肩を両手で掴み、顔を近付ける。

「え、え、え…?」

 ちょっと考えさせて下さい。そう言い残して、帰って行った。

 もちろん、翌日にはお願いしますと頭を下げられたのだけど。


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秋に惚ける 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho

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