第277話 お互いに頬を突きあって

「ねえりっくん。あれ、どう思う?」


 自動販売機で飲み物を買って戻って来た陸翔と蕾華だが、そこでは怜が桜彩を膝枕しながらその頭を撫でていた。

 それを目にした二人は飲み物を持ったまま足を止めて、遠くからそちらを眺める。


「第三者目線で見れば立派なバカップル。ただ、あの二人だからなあ……」


「うん。ある意味日常的な光景だよね……」


 こうして普通にいちゃついていることが嬉しいやら残念やら。

 普通はそのような行為は恋人同士でなければやらないというのに。


「まあとにかく写真撮っとくか」


「だねっ」


 蕾華がペットボトルを陸翔へと渡してスマホを起動して、親友二人の写真を収めていく。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「つんつん」


「あっ! れーいー?」


 頭を撫でながら逆の手で桜彩の頬をツンツンとつついてみる。

 すると桜彩が睨むような目を向けて来た。

 もちろん、本気で怒っていないことは分かるのだが。


「もう。イタズラするなんて!」


「あはは。なんかつついてみたくなったからさ」


「なら私も! ぷにぷにーっ」


「わっ!」


 膝枕されながら桜彩が頬をつついて来る。


「ふふっ。怜のほっぺた、相変わらず気持ち良い」


「う…………」


「ふふっ。怜、可愛い」


 嬉しそうな顔をして頬をつつかれる。

 その様な顔をされてはやめてくれということも出来ない。

 いや、頬に伝わる桜彩の指の感触がなんだか心地好くて、やめて欲しいわけでもないのだが。


「む……。ってことは、俺も桜彩にやり返して良いってことだな?」


 恥ずかしさからそう提案する。

 すると桜彩は怜の頬に指を当てたまま、気恥ずかしそうに膝の上で悩む。


「う……。ま、まあ……そ、そういうことになるのかな?」


「だよな。それじゃあ桜彩。俺もやるからな」


「う、うん。ど、どうぞ……」


 そう言って桜彩が無抵抗で頬を差し出してくる。

 その頬を先ほどされたのと同じようにツンツンとつつくと、指先に気持ちのいい感触が返ってくる。


「ふ……みゅ……」


「あははっ」


 確かにこれはクセになりそうだ。

 桜彩の頬の感触がなんとも心地好い。


「そらっ、そらっ」


「うん。恥ずかしいけど、でも私、怜にこうされるの好きかも……」


「なら今度から機会を見つけてやってみるか」


「うん。それじゃあ私もお返しだ! えいっ」


 すると先ほどと同様に桜彩が怜の頬をつついて来る。


「わっ……」


「やっぱり怜も可愛い」


 膝の上で桜彩がニコリと笑みを浮かべる。


「む……。でも確かに。俺も桜彩にこうされるの好きかもしれない」


「ふふっ。お互いにね」


 そう言って二人で笑い合いながらお互いの頬をつついていく。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ねえりっくん……。あれ、どうする?」


「ずっと見ていたいけどよ……。さすがに周りの目ってのもあるしな……」


 人通りが少ないとはいえ通行人はいないわけではない。

 ベンチに膝枕しているだけでも目立つのに、お互いにそのような事をしていてはもう周囲の注目を二人占めだ。

 本人達はまるで気が付いていないようだが。


「それに早く次に乗りたいしね。ってわけで名残惜しいけど割って入りますかーっ」


 そう言って最後の一枚をスマホカメラに収めた後、陸翔と蕾華は怜達の元へと歩いて行く。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ねえ二人共。仲が良いのはいいけどさ、もっと周り見たら?」


「「え…………?」」


 割って入った蕾華の言葉に、怜と桜彩は周囲を見回す。

 すると何人かの通行人が自分達の方をニコニコとした表情で見ていた。

 それを見て、怜と桜彩は今、自分が何をしていたのか自覚する。


「あっ……」


「あぅ……」


 人前で膝枕、それも頭を撫でたり頬とつつき合ったりのおまけつき。

 それを理解した桜彩がバッと飛び起きて真っ赤になった顔を両手で覆う。

 怜の方も恥ずかしさから顔を下げてしまう。


「まあほら。とにかくこれ飲めって」


「……ありがと」


「さやっちもほら」


「う、うん……」


 陸翔から差し出されたペットボトルを開けて口をつける。

 冷たいお茶が体へと染み渡り、頭も少しずつ冷静になっていく。


「まあとにかくさ、見たところサーヤの方ももう体調は大丈夫そうだよね」


「う、うん……」


 色々あって先ほどのジェットコースターでの恐怖は消え去って行った。

 それとは別に恥ずかしさで死んでしまいそうになってしまったが。


「それで、さやっちの方は見たところもう大丈夫そうだけど、どうだ?」


「う、うん。もう大丈夫。普通に歩けるよ」


 そう言ってベンチから立ち上がる桜彩。

 もう足の震えも治まっており本人の言う通り大丈夫そうだ。


「よしっ! サーヤも回復したことだしさ。休憩はとりあえずここまでってことで、次行こ、次!」


「そ、そうだな。それじゃあ……」


 そう言ってパンフレットを広げて現在地を確認する。

 優先券を持っている為にアトラクションの待機時間を考えないで良いのは本当にありがたい。


「今はここだから、近いのは――」


「あっ、次はこれ乗らない?」


 そう言って蕾華が指差した所を見てみる。


「……フリーフォール?」


「うんっ!」


 数十メートル上空から一気に行われる垂直落下。

 当然ながらジェットコースターと同じく絶叫系の乗り物だ。


「いや、ジェットコースターの後にこれは辛くないか?」


 そう言って桜彩の方を見るが、予想に反して桜彩は問題なさそうに頷いている。


「ううん、私は大丈夫だよ。それにさ、もしまたグロッキーになってもまた怜が支えてくれるでしょ?」


「まあそれはな」


 言われなくてもそのつもりだ。

 そう答えると桜彩は嬉しそうに怜の腕を取って歩き出す。


「それなら問題ないって。ほらっ、行こっ?」


「……そうだな。それじゃあ次はフリーフォールだ!」


 そう言って手を引いてくる桜彩に続いて怜も歩き出した。


「じゃありっくん。アタシ達も行こっか」


「ああ!」


 当然陸翔と蕾華も手を繋いで歩きだし、二組のカップルはフリーフォールのアトラクションを目指していった。

 当然ながらフリーフォールを終えた桜彩はジェットコースターほどではないがグロッキーとなっており、再び怜が介抱することになった。

 それはそれとしてフリーフォールも楽しかったのは事実であり、四人の顔には満足そうな笑みが浮かんでいた。



【後書き】

 次回投稿は月曜日を予定しています

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隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった【第五章後編 ダブルデートと恋心の自覚】 バランスやじろべー @kakukaku12

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