第一章
第1話
1
特別司法警察課、通称〈特察〉の
視線の先には第二次関東大震災により、廃棄された街──東京臨海副都心復興再開発地区、通称〈棄望街〉が広がっている。「この街に入るものは一切の
比良坂の容貌は「特察レンジャー」に恥じない、精悍なものだった。頬の削げた浅黒い顔、野性味のある鼻梁から顎にかけてのライン。だが、眉間に深い皺を刻み、不機嫌そうに下唇を突き出している様は、まったく「特察レンジャー」らしくなかった。
不意に比良坂の纏う制式義装ホンゴウ製、《
すかさず
バイタルデータを確認後、
通信とは、頭部に埋め込まれた極小チップ、通称、《電脳チップ》によって行われる各種情報共有システムである。音声だけでなく文字データでもやり取りできるため、非常に便利なものだ。
《……こちら特別司法警察課本部所属の
「
《……
「了解」
短く返答し、比良坂は通信を切る。同時にビルの屋上から飛び降りた。落下する速度は相当なものだが、微塵も気にせずアスファルトに着地する。反動を巧みに制御し、まるで猫科の動物の軽やかさで立ち上がった。
《──今から現場の座標を送る》
比良坂は電脳チップに送られてきた座標を元に、部下に指示を飛ばす。
《了解》
比良坂の指示に
《──
合流後、無機質な人工音声と共に、比良坂はアスファルトを踏んだ。いや、蹴破った。砕いた石や土塊が散弾銃のように飛び散り、周囲の大気を歪める。
一瞬でトップスピードに達し──
背部ユニットのスラスターで浮力を確保し、低空を滑るように飛行する。周囲の景色が凄まじい速度で流れていく。
「こんな夜更けに暴れやがって、
先頭の比良坂の口から愚痴が漏れる。無理はない。暴装狂戦国時代と呼ばれる昨今、暴装族同士の血で血を洗う抗争劇が毎夜繰り広げられている。猫の手も借りたい位忙しいのだ。
こんな暮らしを続けて、比良坂も長いことになる。だが、いつまで経っても慣れない。
比良坂は、苛立つをぶつけるように、加速した。後続との距離が開く。
やがて前方に目的の廃工場が見えて来た。不気味な程、静まり返っている。
《
比良坂の速度が急速に減少し、
「静かだな……」
そう口にした途端、停止した。
同時に
チェック完了後、
慎重に歩を進める。廃工場の開け放たれたドアから踏み込むと同時に、
「特察だ!」
名乗りを上げた。
***
第二次関東大震災後、復興及び震災被害者支援の名の下に、人間の神経を通じて、肉体に外装部品を組み付け、能力を拡張する
空前の《
だが、4Dプリンターの普及で、簡単且つ安価で造形できる準義装や略義装が闇市で出回り、違法立体印刷された義装いわゆる
当初、治安悪化から地元を守る自衛的な色合いが強かったが、彼らは次第に過激化・集団暴徒化して行く。これこそが後に社会の
彼ら
《暴装族》取り締まり法通称「暴装法」の施行に始まり、違法立体印刷義装いわゆる《
内務省警保局保安課の直接指揮下に置かれ、
──
「──大人しくお縄につけ!」
仰々しく投降を呼びかけるも返ってきたのは静寂ばかり。辺りは惨憺たる有り様だった。地面は赤く染まっている。暴装族のメンバー達は、全員地に伏していた。比良坂は目配せで、副班長である
どうやら辛うじて息はあるようだ。久原は
久原をよそに他の
「!」
比良坂の熱源センサーが鬼火のように、闇に浮かぶ熱源を探知した。ぞわりと背筋が震えるのを感じる。
「──」
途端、その者が動いた。恐ろしいスピードで逃走を開始する。
「まちやがれ!」
比良坂は素早く右腕を大きく引いた。
《腕部収束──
同時に右拳の装甲がスライドし、
比良坂は一気に左拳に右拳を引き付けて、
「ちっ!」
だが、
「こっちだ!」
廃工場近くの竹林の中に、熱源を見つけた比良坂は仲間へ叫んだ。獲物を追う猟犬の如く、追いかける。
だが廃工場の敷地を出た途端、見失った。熱源だけでなく各種センサーにも反応がない。
「消えた……だと。こっちは最新鋭の制式義装だぞ」
苛だたしげに吐き捨てる。
(それに白い
考えあぐねる比良坂。そこへ仲間が追いついて来た。
だが、肝心の《マル被》を見失った以上、手詰まりだ。比良坂は、
《こちら本部。どうぞ》
即座に応答があった。
《こちら
《了解》
本部との通信を終えると、彼は独り言ちた。
「
暴装愚連狂騒曲 @ninxnin
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