第49話 輝きの片鱗

 俺とのハプニングがあってから、梨世の動きが明らかに変わった。

 相手のパスコースを読み切りパスカット。

 そのままボールを奪い切り、一気に速攻。

 スピードを上げてドリブルで突っ込んでいく。

 ゴール前には浮島高校のディフェンスが一人待ち構えていた。


「いけ、梨世!」


 俺は梨世に叫んだ。


「言われなくても、分かってるって―の!!」


 梨世は俺の声に反応しながら、しっかりと踏み込んで物怖じすることなくレイアップシュートへと持っていく。

 シュートする際、身体が相手選手と接触。

 ピィっと審判の笛が鳴り、梨世がすっと右手でボールをリングへと放つ。

 ボールはぐるぐるとリングの周りを回転してから、ゆっくりと内側へと吸い込まれた。


「バスケットカウント・ワンスロー」

「やればできるじゃねーか……」


 どうやら、先ほどのハプニングが梨世の何かを変えたらしく、素晴らしいシュートを決めきってみせた。

 残るは……。

 俺はティアの方へと視線を向ける。

 ティアはどこか緊張した面持ちでコートに立っていた。

 ワンショットのフリースローを梨世が決めきり、スコア四十三対七十六。

 まだ相手に一本もシュートを決めさせていない。


 ピィッ。


「ディフェンス」


 と思っていた矢先、梨世が四つ目のファールを犯してしまう。


「がぁぁぁー!」


 やってしまったとばかりに頭を抱える梨世。


「ったく……柚、梨世と交代だ」


 すぐさま、梨世をベンチへとひっこめる。

 梨世がベンチへ戻ってくると、先ほどのことを気にしているのか俺を警戒していた。


「ファール多すぎだ」

「いてっ……」


 俺がデコピンをすると、梨世が額を手で抑える。


「痛いってば! これ以上私を頭悪くさせる気なわけ!?」

「ちげぇよ。とにかく、一旦頭を冷やせ」

「むぅ……」


 梨世は納得いっていない様子でパイプ椅子に腰かけた。

 相手のフリースロー二本が決まり、四十三対七十八。


「倉田、ティアに運ばせてくれ」

「分かったわ」


 倉田はゴールラインからティアへボールを出す。

 ティアはボールを受け取ると、そのままドリブルを突いていく。


 相手選手がじりじりと距離を詰めてきたところで、ティアは怖気づいて一歩後退。


「下がるな!」


 俺の声にティアがピクンと身体を震わせる。


「失敗してもいい。逃げるな! 俺が付いてる」


 ティアに向かってそう言葉を掛けると、ティアはこちらへ羨望の眼差しを向けてくる。

 よそ見をしている隙を見て、相手がボールを奪い取ろうと突進してきた。

 すると、ティアは一気にドリブルを突いて、相手を交わしてゴール前へと突進していく。

 相手の陣形が崩れて、ティアの元へ二人がドリブルを止めに入ってくる。

 ティアはそれを見て、パっとパスを送った。

 そこにいたのは、ノーマークになっていた倉田。

 倉田はボールを受け取ると、躊躇することなくシュートを放った。

 スリーポイントシュートが決まり、スコアを四十六対七十八とする。

 相手の攻撃はスリーポイントをお返しされてしまって四十六対八十一。

 再び、ティアがボールをは運んでいく。

 人差し指でこちらへ近づいてくるよう静に要求している。

 静はティアの要望通りスクリーンへと入るため近づいていく。

 ティアは静がスクリーンを掛ける準備が出来たところで、一気に右サイドから抜きにかかった。

 静の横ぎりぎりを通って行き、マークマンが静に阻まれる。


「スイッチ!」


 相手がスイッチしてきたところで、ティアは一歩後ろへと下がり、そのままシュートモーションへと入った。

 そのまま天高く飛び、右手からスっとシュートが放たれる。

 弧を描くような軌道でリングへと向かっていくボールには、光り輝いたオーラが纏っているような気がした。


 そして、ボールは吸い込まれるようにして、スパっとゴールに吸い込まれる。


「入った……」


 シュートを打ったティア自身が一番驚いた様子で唖然としている。


「よしっ!」


 俺は思わずガッツポーズを決めてしまう。

 ティアはシュートが決まったことをようやく理解したのか、踵を返してベンチへと駆け寄ってくる。


「入った、入ったよ大樹君!」

「あぁ、ナイスシュートティア!」


 俺とティアはバシンとハイタッチを交わした。

 ティアの表情はどこか輝いていて、自信に満ち溢れている。

 その表情から、ティアの輝きの片鱗を見たような気がした。


 その後も、一進一退の攻防が続き、試合終了のホイッスル。

 最終スコア五十七対八十八。

 第四クォータだけで見れば、二十一対十二。

 九点を縮めることが出来て、チームとしても課題を見事クリアしてみせた。


 全員がこの一週間で課した課題を見事クリアしてみせて、練習試合は成果と課題の両方が浮き彫りとなる素晴らしい経験となったと言えるだろう。

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