第47話 突きつけられた現実

 ブゥー。

 長い長い第三クォーター終了のブザーが鳴り響く。

 まさに悪夢の時間だった。

 スコアは三十六対七十二。

 梨世の得点のみで、全く攻撃の糸口すら与えさせてくれず、相手にダブルスコア(倍の得点差)を付けられてしまった。


 悪夢の第三クォーターを終えて、ベンチに戻ってくる五人。

 既に生気を失っており、ぐったりとパイプ椅子に項垂れる。。

 特にティアは、自身がミスを連発してしまったこともあり、顔を上げれず俯いてしまっている。

 俺はそんな彼女たちの姿を、ただ目の前で眺めていることしか出来ない。

 何もしてあげられなかったことが何よりも悔しくて、俺はぐっと手に力が籠ってしまう。


「これが、今俺達の立ち位置だ。練習も足りてないし準備不足。県ベスト8との学校の実力差だ」


 現実を大きく突きつけられてしまった。

 何より、開いた点数差がそれを顕著に表している。

 ちらりと相手ベンチを見れば、選手を交代させる用意をしていた。

 試合が決まったことにより、主力を温存させて、控えメンバー中心で戦うらしい。


「この際、試合の勝ち負けは気にするな。この第四クォーターの十分間は、この一週間みんなが取り組んできた課題をクリアしよう。俺がみんなに何を課したか覚えてるか?」


 俺が問いかけると、彼女たちはコクリと頷いてくれる。


「なら、その成果を見せてくれ。みんながこの一週間練習してきたことを出し切ろう。今はそれだけで十分だ」


 俺はふっと微笑みながら語りかける。


「……それだけじゃ足りない」


 とそこで、ティアが握りこぶしを作り、プルプルと震わせながら顔を上げた。


「私たちは勝ちたい……勝ちたいんだよ……!」


 ティアは今にも泣きしそうな表情で、身体を震わせている。

 その表情からは悔しさが滲み出ていた。


「誰が負けを認めろと言った? 俺はまだ、勝負を諦めてないぞ」

「えっ……?」


 俺の言葉を聞いて、ティアが潤んだ瞳でこちらを見据えた。

 それを見て、俺はにやりとした笑みを浮かべながら彼女達へ問いかける。


「各々の課題と共に、全員でのノルマを課す。この第四クォーターの十分間の勝負は、絶対に勝って来い0-0からの十分ゲームだと考えろ。それが、チームとしての今日の課題であり目標だ」


 俺が自信満々に言い切ると、静がふっと笑みを零す。


「当たり前。このままやられっぱなしは嫌だ」

「そうね、私たちをいたぶった分、残り十分全力でお返ししてあげようじゃない」

「だよね! 点差がついても諦めない!」

「ですね! 諦めたらそこでおしまいですから!」

「そう言う事。私達、誰も諦めてなんかないっての。澪ちゃんだってそうでしょ?」


 梨世が問いかけると、ティアは目をパチクリとさせてから、ふっと破願した。


「うん! 絶対に負けない!」


 全員の身体から闘志がみなぎっているのが伝わってくる。

 どうやら、再び戦う気持ちを取り戻してくれたらしい。


「よっしゃ。じゃあ行ってこい!」


 俺はそう言い切って、五人をコートへと送り出す。


「大樹君……ありがとね」


 コートへ入っていく際、ティアに感謝の言葉を言われる。


「別に、俺は当たり前のことをしたまでだよ。それに約束したからな。ティアが輝きを取り戻させて見せるって」


 俺がにっと笑みを浮かべて言い切ると、ティアは恥ずかしそうに頬を染めた。


「もう……そう言うこと試合中に言わないでよね」


 モジモジとしていたものの、すぐさま表情を切り替えて、パッと華やかな笑みを浮かべたティアは、人差し指で俺を指差してくる。


「見てて。大樹君から教わったこと、今の私を全力で表現してみせるから!」


 そう言って、コートへ意気揚々と戻って行くティア。

 俺はそんなティアの姿に、不覚にも心を奪われてしまった。


「大樹コーチは澪先輩に随分と愛されているんですね」

「う、うるせぇ」


 亜美にからかわれつつ、俺は顔を背けてベンチへと戻った。

 さて、最終クォーター。

 一週間の成果を見せてもらおうじゃないか。

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